どこか不完全でほっとする、不思議な形をしたオブジェやペインティング。カナダ出身の女性アーティスト、ユニス・ルックの個展が原宿VACANTとカナダ大使館の2箇所同時開催中。日本の土に出会い、自然の形に新しい息吹を与えたルックのインタビューをお届けします。


卵? 虫? 海のいきもの? さまざまなものを連想させるセラミックのオブジェたちが、朝焼けを思わせる薄いピンクやブルー、イエローやオレンジのグラデーションで彩られている。「これは、私なりの自然。森の中にいると守られていると感じる気持ちを表現しています。」カナダ、トロント出身のユニス・ルックは、幅広いメディアを扱うアーティスト。横浜市黄金町と滋賀県信楽町のアーティスト・イン・レジデンスで滞在制作した作品を中心とした個展が、原宿のVACANTとカナダ大使館で開催中だ。

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VACANT/GALLERYで開催中の個展「でんでん虫の殻の中」

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ユニスが日本に来て初めて挑戦した陶板の作品

展覧会には、セラミック彫刻や陶板のほか、シルクスクリーンやペインティングも並ぶ。そのほとんどを日本で制作した。なかでも感動したのが、滋賀県信楽町「陶芸の森」での滞在だそう。「ローカルの土を使ったセラミックをやってみたくなったんです。カナダには地元の土を使う文化がないから。それで信楽に行き、土地の土を使って作りました。信楽は本当に素晴らしいところ!」信楽で過ごした時間は、作品に表れる形にも影響を与えた。「ハイキングをして見つけた自然や田園の風景やいろいろな生物にヒントをもらいました。日本の田舎の虫は色も形もすごく美しい。」ルックの目を通して見たあらゆるものが「もっとシンプルに」なって、作品へと昇華される。

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信楽で焼いたセラミック彫刻や陶器の作品

ひとつずつ手でこねて、色も歯ブラシで叩いて付けているセラミック彫刻は、少しだけでこぼこしていて、味がある。だからか彼女の作品を見ていると、ふっと息が抜けて、ほっとする。「都会の生活は刺激的で、神経をずっと張っている感じ。そんなとき、完璧な形とは言えない私の作品を見て、少し現実からエスケープできる、毛布に包まれているような気分になってくれたらうれしいな」その思いを、展覧会タイトル「でんでん虫の殻の中」にも込めた。「かたつむりの殻も、亀の甲羅も、自分を守ってくれる唯一の家。そんなふうに安心できる空間や時間を表現したい」。

ときどき片言の日本語を交えて、ゆっくりと話すチャーミングなルック。よほど日本が気に入ったようで、できれば松尾芭蕉の「奥の細道」(のなかでも、なぜか中山道!)の旅を追体験してみたいとも。彼女のシンプルな表現に込められた自然を慈しむ心と静謐さは、自然とともにある日々を通して自分と向き合う伝統的な日本の文化とも通じる。日本での滞在を通して、彼女の作品がどう展開していくのか、ますます楽しみ。

 

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Eunice Luk(ユニス・ルック)
1988年生まれ、カナダ・トロントのアーティスト。横浜黄金町のアーティスト・イン・レジデンスプログラムに参加。様々なメディアや技法を使って、物事を自身の言葉に転換し、作品の中心(ポジティブスペース)とその背景(ネガティブスペース)をシンプルかつ主観的に記録している。近年では Swiss Institute(ニューヨーク)、Printed Matter(ニューヨーク)、The Walter Phillips Gallery (バンフ)、Art Metropole (トロント)、Xpace (トロント) 、 Narwhal Projects (トロント)などで展示を行っており、オンタリオ・アーツ・カウンシルやトロント・アーツ・カウンシルからのサポートをうけ、信楽町陶芸の森に滞在。Slow Editions (スロウ・エディションズ)という出版レーベルで、アーティストブックや小物を制作し、ニューヨークやロサンゼルス、東京でのアートブックフェアにも出展。

 


ユニス・ルック 「でんでん虫の殻の中」
会期:2016年11月25日(金)- 12月14日(東京都渋谷区神宮前3-20-13)
会場:VACANT/GALLERY
時間:12:00-20:00
入場無料

ユニス・ルック「完璧な卵などない」
会場:カナダ大使館高円宮記念ギャラリー(東京都港区赤坂7-3-38 地下鉄「青山1丁目」駅より徒歩5分)
会期:2016年11月29日(火)- 2017年1月20日(金)
時間:10:00-17:00
休館日:土曜日、日曜日、12月26日(月)- 1月3日(火)
入場無料

柴原聡子 Satoko Shibahara

建築設計事務所や美術館勤務を経て、フリーランスの編集・企画・執筆・広報として活動。建築やアートにかかわる記事の執筆、印刷物やウェブサイトを制作するほか、展覧会やイベントの企画・広報も行う。企画した展覧会に「ファンタスマ――ケイト・ロードの標本室」、「スタジオ・ムンバイ 夏の家」など。