ストリートからランウェイまで、世界中のファッションがロシアに夢中! 現地のおしゃれ事情とは?「RUSSIAN YOUTHの肖像」

ストリートからランウェイまで、独特なグラフィティや色使い、ユニフォームウェアなど、影響の版図を拡大しつつあるロシア。 今まで知ることのなかった現地のおしゃれ事情とは? 彼女たちのリアルなシーンに迫る。


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今、なぜロシアなのか?

コム デ ギャルソンやシュプリームからラブコールを受けるファッションデザイナーでありヴィジュアルアーティストのゴーシャ・ラブチンスキー。バレンシアガやヴェトモンのショー、キャンペーンのスタイリングを手がけるロッタ・ヴォルコヴァ。BUTTECHNOとして活動するDJのパヴェル・ミルヤコフ……。世界のクリエイティブシーンでロシア人の名前を見たり聞いたりするようになったのは、比較的最近のことである。かつてはロシア構成主義(ロトチェンコ)や映画のモンタージュ理論(エイゼンシュテイン)など芸術大国だったが、20世紀後半以降はスポーツやイロモノ系アイドル(t.A.T.u.)が気を吐くくらいでソフトパワーの衰えを隠せなかったロシアに、世界中のクリエイターが熱い視線を注いでいる。特にファッションというフィールドにおいて。一体、なぜ?

今ロシアでは1991年のソビエト連邦崩壊の後に生まれたジェネレーションが、自ら発信する力を得つつある。彼らは“ポストソビエト・ユース”と呼ばれ、広大な国土から自由なクリエイションを生み出す。独特なロシア語を用いたグラフィックを使用し、今までに見たことのないファッションを発信している。88年に生まれ、ユース/サブカルチャーを追い続ける写真家のソーニャ・キディーヴァは言う。

 

「今のモスクワのユースたちは、一度崩壊したロシアのエンターテインメントを取り戻そうとしている。たとえば映画や音楽、広告、それにファッション。単純にマネをするだけではなくて、自分たちのカルチャーとライフスタイルにうまく落とし込んでいるの。だからありきたりの洋服でもクールに見えるんでしょうね。それに今のロシアは経済的にもあまりいい状況ではないから、華美な装いは少なくて、リーズナブルなストリートウェアが多い。それが今のトレンドとマッチして、注目されるようになったんだと思う。でも今後、モスクワの街もどんどん変化していくはずよ。それと同時に彼らのスタイルも変わっていく。それを写真家として記録していきたいと思っているの」

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Photo: Sonya Kydeeva
ソーニャ・キディーヴァ≫ 1988年ロシア生まれの女性写真家。モスクワを拠点にしながら、ロシアの歴史やカルチャーを独自の目線で切り取る。現在、英国のファッション&カルチャー誌『i-D』や『Dazed & Confused Magazine』などにも寄稿する“ポストソビエト・ユース”を代表する1人。
http://cargocollective.com/kydeeva


ゴーシャ・ラブチンスキーというカリスマ

ロシアの盛り上がりの起爆剤となっているのが、ゴーシャ・ラブチンスキーというクリエイターである。もともとスタイリストとして活躍していたラブチンスキーだが、モスクワのスケーターなどのユースの肖像を切り取った写真や映像を手がけるようになり、次第にヴィジュアルアーティストとしての才能を開花。その後、ファッションデザイナーとしてブランドを手がけつつ、アーティストとして写真集を刊行すると、次第に世界が注目する存在となる。また数々のプロジェクトで被写体として起用されていたヴァレンティン・フファエブはDouble Cheeseburger VFを、トリア・ティタエヴはPACCBETというファッションブランドをスタートする。これらのプロダクションをゴーシャは全面的にサポートし、ブランドデビューを後押しした。こうしてロシアのクリエイターを次々とプッシュしているキーマン的存在なのである。

Gosha Rubchinskiy Spring/Summer 2016 - Paris Collection - Runway, Men Gosha Rubchinskiy : Runway - Paris Fashion Week - Menswear F/W 2016-2017 Gosha Rubchinskiy - Mens Fall 2015 Runway - Paris Menswear Fashion Week Gosha Rubchinskiy - Mens Spring 2015 Runway - Paris Menswear Fashion Week

1985年生まれのゴーシャ。2008年頃より服も手がける。


スキンヘッドをメインストリームに押し上げたモデル事務所「ルンペン」

ルンペンモデルはロシア人の男の子や女の子しか所属できない事務所。でも、ただのモデル事務所とは違う。それはラインナップを見てもらえばわかること。私は世界中のみんながどうロシア人を見ているのか? どんな人たちが彼らに興味をもっているのかを、ある意味観察して実験しているの」とは、モスクワを拠点とするモデル事務所「ルンペン」の創立者アヴドージャ・アレクサンドロフ。アレクサンドロフが言うように、ルンペンにはいわゆる美形のモデルは多くない。たとえばスキンヘッドの男性モデルからパンクロッカーみたいな女性モデルまで、かつてのモデル事務所では見られなかったタイプのモデルたちが多く所属する。そんなルンペンに世界中のキャスティングディレクターも目を離せずにいる。『i-D』などインターナショナル誌や、アラスデア・マクレランのような大御所カメラマンからも厚い信頼を寄せられているキャスティングディレクターのマドレーヌ・オストリーは言う。

「ルンペンは特別よ。ロンドンはもちろんパリの広告の仕事でも、ルンペンにいる子たちの雰囲気が最近好まれているのを肌で感じている。ただ美しい子やクールな子というよりも、エッジの効いた〝リアル〟な雰囲気をもつ子たちがいるからね。ヴェトモンでロッタ・ヴォルコヴァと一緒にキャスティングしているヘンリー・マッキントッシュもルンペンの子たちを毎シーズン起用している。他のショーでは歩かないような子たちがたくさんいるでしょ?アレクサンドロフは見事にトレンドをつかんで、私たちに素晴らしいモデルの可能性を見せてくれたと思うわ」

Street Style - Paris Fashion Week : Day One - Haute Couture F/W 2016/2017

創立者のアレクサンドロフ(写真左)。1990年モスクワ生まれの彼女もまた、ポストソビエト・ユースを牽引している。

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モデル一覧には異様なオーラが漂う。

Photo: Sonya Kydeeva, AFLO, Getty Images
Text&Edit: Takuhito Kawashima