こんにちは。今日はファッションレーベル THERIACA(テリアカ)のデザイナー、濱田明日香ちゃんのインタビューをお届けします。昨年東京、大阪、神戸で開催された「THERIACA 服ときょうりゅう展」には行きましたか?国内では初めての展示だったそうですが、クリエイターや個性的なお客さんでにぎわっていました。THERIACAの服はシンプルだけど、パターンや機能が非常にユニークで、わくわくさせてくれる服ばかりです。今回は彼女がよく行くベルリンのマーケットや今住んでいるお部屋に出かけ、色々と聞かせてもらいました。じつは彼女、2014年からベルリンに住み、ヨーロッパを拠点に活動しているんです。

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–THERIACAはいつ、どんなきっかけで始まったのですか?

イギリスのロンドン・カレッジ・オブ・ファッションに通っていた時に、学校の課題がきっかけで始めたレーベルです。先生やクラスメートたちが課題でつくったコレクションを欲しいといってくれて、急きょ立ち上げました。

–オーダーありきで始まったんですね。名前はどうやって決めたの?

当時のフラットメイトに相談しながら決めました。THERIACAには万能解毒剤という意味があって、その意味合いも好きで。服にも、人の気持ちを前向きにする薬みたいな力があればいいなと思ったんです。服は乗り物や医療なんかと違って、わかりやすく人の幸せに貢献できるものじゃないと思っていたんだけど、気持ちの部分でプラスになることはあると思ったんだよね。でも、着回しがしやすいとかトレンドにのっているとか、そういう意味で使える服がつくりたいわけじゃなかったので、薬みたいな存在がいいかな、と。

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–明日香ちゃんはどこで育ち、どんなきっかけからファッションの世界に入ったのでしょうか?

出身は兵庫県の宝塚です。高校を卒業してから京都市立芸術大学の染織科に入って、その時はファイバーアートみたいなことをやっていたんだけど、展覧会に向けて作品をつくっても、終わったら「あれ、これ何のためにつくったんだっけ?」みたいなものがたくさん残って、ちょっと消化不良な感じがしていて。それから4年生の時に交換留学でカナダのノヴァスコシア芸術大学へ行って、初めて実際に使える布をつくりました。ウールで生地を織ったり、プリントの柄をつくったり。それがすごく新鮮で、一気にもやもやが晴れて「私はこっちだ」と思ったんです。

–作品じゃなくて、使えるもの。

そうそう、つくっていて楽しかったしね。使えるものがいいんだと気づいてから、テキスタイルで使えるものは?って考えて、それが服づくりを始めるきっかけになったかな。やっぱり自分が何をするかってなった時に、楽しくないと続けていく動力にならないから。そのあと日本に戻り、留学資金を貯めるためにアパレル会社に就職しました。

自分も見たことがないもの

そこの会社には企画として入って、好きなことをさせてもらっていました。ただ、服のデザイン画を描く時に自分の頭の中にあるイメージを描いていくことになるんだけど、なんか驚きがなかったんだよね。“自分も見たことがないもの”があまりできてこなくって。それで働きながらパターンの学校に通い始めました。やっぱりパターンからだと思って。

–すごい発想! THERIACAは変わった形の服が多いよね。どうやってつくっているのか不思議です。

デザイン画を書くこともあるんだけど、発想の糸口になる言葉やビジュアルを決めて、ボリューム感なんかをイメージして、それからいきなり布を触る、みたいなつくり方をすることが多いです。さっきもちょっと作業していたんだけど、四角く切った紙を並べて服っぽくしたりとか、お菓子のパッケージに持ち手をつけたらバックにならないかなあとか。実際に手を動かして偶然性のある形を見つけていって、好きなところで手を止める。工作に近いつくり方をしているかもしれないです。

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–それからアパレル会社を辞めて、ロンドン・カレッジ・オブ・ファッションへ?

うん、日本のパターン教育は原型から始まってわずか数ミリの違いにもこだわるみたいな世界だったんだけど、イギリスの学校に入ったら、何も技術を教えないまま、いきなりつくれといわれてびっくりしました。どうイメージを膨らませるか、どう最終形に落とし込んでいくか、というクリエーションの部分にフォーカスをおいていて。おもしろかったのが、フードつきのコートをつくった時に、クラスメートが風船を膨らませて、それを頭に見立ててパターンをつくろうとしていたんです。そういう試行錯誤はすごく大事だなと思って。フードのあり方ってひとつじゃないし、いわゆる既存のフードじゃないものを見つけるという意味では、教えない教育も大事だなって。同時に、イギリスにはファッションの歴史があるから、ヴィンテージのいいものを見れたのも良かったかな。

自由に発想できる街はどこ?

 

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–ファッションの歴史あるロンドンは、明日香ちゃん的にはどうだったんでしょうか?

いわゆるそれまでのファッションのあり方というのがもう古くなってきてるのかなという気がして…ロンドンの学校を卒業した後にベルリンに移るんだけど、というのもベルリンは、ファッションの考え方が自由だったんだよね。たとえばイギリスだと、お出かけするときは革靴を履いてパットの入ったジャケットを着て、みたいな暗黙のルールがあったりするんだけど、ベルリンにはそういうのがまったくない(笑)。歴史がないから、発想もつくる人たちも自由で、そのなかにヘタウマなものもあれば、突出している人たちもいる。それからベルリンにはANNTIANとかBLESSとか、私が好きなブランドがあったから、そこには何があるんだろうと思っていたの。他の都市とは違う、ベルリンだけの流れがあるように感じて。

–流行を追いかけている感じがしないよね。時代の先を行っているのか、遅れているのか…

ほんとによくわからない(笑)。でも、ルールがないから居心地がいいよね。どんな格好していてもいいし、どんな考え方で、何をつくってもいいし。

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–ベルリンへは、何のつてもなくいきなり来たの?

最初はBLESSのインターンとして来ました。それからBLESSとANNTIANで仕事ができることになったけど、来たばっかりの頃はほとんど知り合いがいなかったです。

–すごいね。今は自身のプロジェクトを手がけつつ、BLESSとANNTIANの仕事もしているという感じですか?

そうです。年に何回かTHERIACAの服を発表して、そのほかにアーティストの作品づくりに関わったり。BLESSではパタンナーの仕事をしています。ANNTIANは夫婦がやっているブランドなんだけど「ワンピース、なにか」みたいにざっくりとした注文をもらって、私が「こんなのどう?」とパターンを提案して、一緒につくっていく感じ。その夫婦と私しかいないので、アットホームで家族みたいです。

–東京よりベルリンの方がものづくりしやすい?

東京はとにかく情報やイベントが多くて、刺激は一杯もらえるけれど、ここに住んだら自分のことできなくなっちゃうと思いました。私には自分のことに落ち着いて取り組む時間が必要。ベルリンはじっくりものづくりをしたい人には向いていると思います。あと、私はカテゴライズされることに恐怖を感じていて(笑)。

–たしかに東京のブランドはカテゴライズされてしまうかも。こういう流行りの中にあって、こういうテイストの人たちが着て、みたいに。

そういうカテゴライズもファッションのあり方だと思うけど、もうちょっと自由でいたいというか、ニュートラルでいたい感じがするんです。ファッションブランドはこうあるべきとか、服はこうでないといけないとか、いろんなことにおいて、型にはめられるのが苦手。服はただの布の造形物なので、ファッションとアートをわける必要もないと思う。私は純粋にクリエーションがしたくて、その落としどころがたまたま服だったんです。服って、人が着ることでおもしろい二次効果もたくさんあって。

 

–たとえば?

お客さんから「THERIACAの服を着ているとよく声をかけられる」と言われることがあるんだけど、だとしたらものすごくうれしいです。服がその人らしくあるためのツールになり、コミュニケーションツールにもなったということだから。THERIACAの服はいろんな人に知ってもらって、いろんな人に着てもらいたいと思ってる。もしトレンドや周りの目を気にして服を選んでいる人がいたら、私の服を着て少しでも自由な気持ちになってもらえたらいいな。

余計な色を排した、ニュートラルな服

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「THERIACA 服ときょうりゅう展」Utrecht/NOW IDeA 2016年10月18〜30日 画像提供:Utrecht/NOW IDeA

–昨年東京のUtrecht/NOW IDeA、大阪のSaji、神戸のVIVO,VAで行った展覧会ではTHERIACAの世界観を見せ、服の受注販売もしていました。いい機会になりましたか?

うん、特にUtrecht/NOW IDeAはギャラリーでも本屋さんでもあって、ニュートラルな感じでよかったです。いろんな人に会えた。大阪、神戸のスペースもそれぞれによくて、今後もいろんな場所でポップアップショップできたらおもしろいと思いました。

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画像提供:Utrecht/NOW IDeA

–会場の所々にぬいぐるみが置いてあったんだけど、なにか意味があったの?

あれは、あのぬいぐるみに着せる服をつくっていたんだよね。

–えー!発想の仕方が全然ふつうじゃない(笑)。

父が建築家で、母は昔、家でお絵描きの先生をしていたから、その影響もあるのかも。母は今陶芸家なんだけど。ずっと家に子どもの作品なんかが置いてあって、いつでも工作できるような環境でした。

–ぬいぐるみはどこで集めてきたの?

ベルリンでは日曜日にいたるところで蚤の市とフリーマーケットをやっていて、そこで見つけることが多いです。アンティークの子どもの服を見るのも好き。たまに、服に使う生地を買うこともあります。

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–『かたちの服』(2015年 文化出版局)と『大きな服を着る、小さな服を着る。』(2016年 文化出版局)という手芸本も出していますね。今年の初夏に新しい本が出ると聞いたけど、どんな本ですか?

ピースワークがコンセプトの本です。型紙から服をつくっていくんじゃなくて、ピースの集合体から服ができないかな?という実験を色々してみました。パッチワークっぽくつなげたり、上下に大きく分けたり、袖と身ごろの色を変えたり。つくる人の布の選び方によって、全然違ったものができておもしろいと思います。

–ちゃんと型紙がついた手芸本なので、見ているとつくってみたくなります。

服はお店から旅立っていく流れものというイメージなんだけど、本はそこにカルチャーがあるとゆうか、伝えたいものがあって、ちゃんと残っていくというところが好き。昔から本という媒体がすごく好きなんです。

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–服が好きでファッションに依存してしまう人もいるけど、THERIACAはファッションとの距離感が心地いい感じがします。力が抜けているというか。

たまたまクリエーションを落とし込む形として服が面白いと思って作っているだけで、ファッションだと思ってやっていないのかも。ビジネスというより、作品をつくるという感覚に近い。なので、私のしていることを既存のファッションの流れにのっけなくていいんじゃないかなと思っているんです。たとえば年に2回コレクションをつくる必要もなければ、袖が2つである必要もない。アパレル会社では売れる服をつくっていたけれど、シーズンに追われて服をつくっていると、大量生産と消費の繰り返しだから、ゴミをつくっているんじゃないかという思うこともありました。もちろん売れる喜びはあるし、売れる=悪いとは思ってないんだけど、もう少し一個一個を楽しんでつくっていきたい。そういうところから人の気持ちを服で幸せにできるといいなと思うようになってきて、レーベル名も薬の名前にしたかな。あと、富山の薬売りみたいな商業スタイルもおもしろいと思っていて。行く先々の人たちのことを思いながら商品を詰めて、風呂敷を広げたらそこが店になるみたいな。

–それおもしろいですね!

いつどこへ移動するかわからないという生活を続けていたら、服をスーツケースひとつに詰めないといけないということがしょっちゅうあって。そうすると、ある程度着回しがきいて、自分らしくいられる服が残ることになる。そういう時に選んでもらえるような服をつくりたいと思っています。

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–今後はどんな風に活動していくの?

引き続き自分の研究成果を本として出していきたいというのと、展示やポップアップショップもやっていきたい。あとは、こないだの「THERIACA 服ときょうりゅう展」で、私のやっていることをおもしろがってくれる人がいたから、これからも自分らしいクリエーションのスタンスを守りながらやっていけたらいいな。

–自分らしいやり方がわかってるってすごいことですよね。“自分も見たことがないもの”を見たいと思ってパターンを学んだり、ベルリンに住んだり、自由につくれるところを見つけにいっているんだと思いました。「THERIACA 服ときょうりゅう展」ではたくさん服を受注し、制作が追いついてないとか。今はぜんぶ明日香ちゃんが手づくりしているんですよね?

そうなんです。そこをどうするかが、今後の課題ですね。

–そうですよね、買いやすくなるとうれしいです。今日はありがとうございました。また日本やどこかで会える日を楽しみにしています!

 

濱田明日香 Asuka Hamada

ファッションデザイナー。京都市立芸術大学、ノヴァスコシア芸術大学(カナダ)にてテキスタイルデザインを勉強後、デザイナーとしてアパレル企画に数年携 わり、渡英。ファッションとパターンについて研究し、自由な発想の服作りを続けている。2012年、ロンドン・カレッジ・オブ・ファッション在学中に ファッションレーベル“THERIACA”(テリアカ)をスタート。ギャラリーや本での作品発表、衣装制作など、 既存のファッションブランドのあり方にとらわれない、服とのかかわりを目指して活動中。現在ベルリンにて自身のプロジェクトを行うと同時に服づくりとお しゃれの楽しさを共有するツールとして本の執筆も手がけている。
www.theriaca.org
Instagram @_theriaca_

Photo: Hirofumi Abe
※Utrecht/NOW IDeA提供画像を除く
Coordinate: Hiroyuki Sugihara
Text & Edit: Yu Miyakoshi
Thanks to: Utrecht/NOW IDeA


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