古布をおおいつくす、驚異的な密度の刺繍。形やモチーフははっきりとしないけれど、一針一針積み上げられた刺繍のもつエネルギーに目は奪われ、圧倒されてしまう。沖潤子の作品には、家庭的とか温かさといった、従来の刺繍や手芸のイメージを根っこから覆す強さと激しさがある。彼女の個展が、銀座の資生堂ギャラリーで開催される。これまでにARTSSCIENCE青山や森岡書店などでも個展を行い、熱烈なファンを集めてきた沖の作品が比較的大きな規模で見られる貴重な機会だ。

2.midnight_R

沖潤子《midnight》2016年 金沢21世紀美術館所蔵 金沢21世紀美術館 「コレクション展 Nous」より  photo : Shintaro Yamanaka

1.oki_midnight_2016_R

沖潤子《midnight》(部分)2016年金沢21世紀美術館所蔵

国内外で活躍する沖のキャリアのスタートは2002年。40歳を前にして、洋裁をやっていた母が残した布に自己流で刺繍をほどこすようになる。地となる古布がもつ時間と記憶に、家族のことや、個人的な記憶を思いながら針を進める沖の繊細な刺繍が重ねて作られる作品たち。そこには、感情やの襞のような生々しさがある。「布は皮膚であり、針を刺すのは記憶を留めるため」という彼女の言葉のとおり、布と刺繍が織りなす表面のでこぼこは、皮膚や体の一部のようにも見える。だからか、観ていると誰かに触れられるような、ざわざわした感じがしてくる。

6.lemon_R

沖潤子《Lemon》2014年

7.no title_R

沖潤子《no title》2017年

2014年には文藝春秋から大判の作品集『PUNK』を出版。最近ベルギーで行われた個展では、彫刻的な作品や服に刺繍をほどこすなど、メディアも拡げている。今回の個展では、蛹(さなぎ)をイメージとして重ね合わせた刺繍作品を中心に、針を題材とした作品や映像作品も展開。ジャンルにとらわれず作品の幅を広げていく感じは、針目を重ねていく刺繍のよう。既存の価値観や領域を、じわじわと覆し超えていく彼女の静かなパンク・スピリットを、展覧会で直に感じてみたい。

4.annamaria_R

沖潤子《anna maria》2016年

 

「第11回 shiseido art egg 沖潤子展」
2017 年6 月30 日(金)~7 月23 日(日)
資生堂ギャラリー

〒104-0061 東京都中央区銀座8-8-3 東京銀座資生堂ビル地下1 階)
入場無料
開館時間:平日 11:00~19:00 日・祝 11:00~18:00
毎週月曜休(月曜日が祝祭日にあたる場合も休館)
ウェブサイト:http://www.shiseidogroup.jp/gallery/
お問合せ:tel.03-3572-3901

*沖潤子展終了後、「第11回 shiseido art egg 菅亮平展」 が開催されます。(会期:2017 年7 月28 日(金)~8 月20 日(日))

沖潤子によるギャラリートーク
日時:7月1日(土)14:00~14:30
会場:資生堂ギャラリー
参加費無料 事前申し込み不要

Ginza_WEB_アート_柴原さん
柴原聡子

建築設計事務所や美術館勤務を経て、フリーランスの編集・企画・執筆・広報として活動。建築やアートにかかわる記事の執筆、印刷物やウェブサイトを制作するほか、展覧会やイベントの企画・広報も行う。企画した展覧会に「ファンタスマ――ケイト・ロードの標本室」、「スタジオ・ムンバイ 夏の家」など