就任から2年。〈シャネル〉のメークアップ部門のグローバル・クリエイティブ・ディレクター、ルチア・ピカが初めて来日した。 メイクにかける思いを春夏の新色に託して語ってくれた。女性を幸せにするためにできることに向き合う、ひとりのクリエイターの姿があった。
〈シャネル〉ルチア・ピカ スペシャルインタビュー メイクが幸せのためにできること
右: ひとつのパレットにコンシーラー、ハイライター、チークカラーを配したルチアお気に入りのアイテム。パレット エサンシル #150ベージュクレール ¥7,000 左: ヴェルニ ロング トゥニュ #590ヴェルデ パステッロ ¥3,200
ルチアが教えてくれた 自分だけの色を探す旅
ルチアに会ったのは、それまで雨が続いていた東京が彼女曰く「ナポリのように見事に晴れた」美しい午後だった。
初対面とは思えなかった。赤を蘇らせた彼女の最初のコレクションに惚れ、唇に、目元に、毎日まとっていたから。
旅に出て景色の中に身を置き、イマジネーションを膨らませるのがルチアのスタイル。前回のAWコレクションに選んだカリフォルニアに続いて、今回訪れたのは故郷であるイタリア、ナポリだった。
「カリフォルニアでは自分を外に向け、知らない色を探した。今回は知っている色を深く読み解く、親密な旅をしたわ」
時計の針を2000年前のナポリに戻し、ルチアの言葉を借りて描写しよう。
セイレーンがオデュッセウスを誘惑しようとして失敗し、傷心から身投げしたという伝説から始まるこの地。やがて周辺にいくつもの町が集まり〝ネアポリス〟と呼ばれる巨大都市を形成する。我こそはと才能ある者が集まり、栄華を極めた。畢竟それは衰退と背中合わせでもあった。
「メタファー、レイヤー、コントラスト。朽ちていくその姿までも含めて、こんなにミステリアスな都市の姿はない。2000年の歴史の賜物ね。複雑でクリエイティブで、時代の気分にぴったり」
友人である写真家が同行し、新鮮なアングルで故郷を切り取った。旅から戻るとパリのアトリエに直行。写真をスクリーンに大写しにした。アウトプットの始まりだ。
「この壁の色はアイカラーに、花は口紅に。朽ち果てる建物ですら、グロスのイマジネーションになったわ。絵画のテンペラ技法に着想を得た口紅も自信作よ」
チームを率いる彼女に求められるのは、単に新色を作り出すことではない。
「見たものや体験を三次元の記憶としてクリエイティブな活動、つまり、コスメの色や質感に還元できるようになったの。昔の私には決してできなかったこと」
そうして完成した、テーブルにずらりと並べられた春夏コレクション。
「見ててね。まず私が塗ってみる」
ルチアが新作の口紅を手に取る。
「20往復は塗ってね(笑)。日本人は肌がきれいだから、ベースはミニマムに。そのぶんリップとアイカラーは大胆に」
ルチア先生の真似をして私も塗ってみる。10を数えたあたりで及び腰になる。
「もっと、もっとよ(笑)!」
続けてパレットのグリーンで目元をぐるっと囲んでみた。涙袋にはゴールド。
「そう、それでいい。とっても綺麗」
鏡の中には今まで見たこともないポジティブで強い顔があった。グリーンがとても似合うとルチアは褒めてくれた。
「グリーンが似合うかどうか挑戦してみたことがなかった」と、私は答えた。
「似合う色に出会えるよう背中を押すのも私の役目だもの。色選びに迷うことがないよう、かつ、使いやすい製品にして届けるのがプロの仕事だと思ってる」
お礼にいくつかの取材で得たとっておきの情報を教えてあげた。
「来年のラッキーカラーはグリーンだって、日本の有名な占術家の多くが言ってます」
「本当なの?聞いた?偶然にしてはすごいお手柄じゃない!?私」
スタッフを見て破顔する。その笑顔がとても美しくて、〈シャネル〉の口紅が一番似合うのはルチアだと思うと伝えた。
「出かける予定がなくても、口紅は欠かさない。人から褒められることも大切だけど、まず鏡の中の自分に自信を持てることが、特に女性には大切だと思うから。私、幸せそうに見える?ありがとう。それってとっても光栄だわ!」
1.バームを塗ってから、パウダーを唇にのせる。質感は優しく、仕上がりはグラマラス。プードゥル ア レーヴル #410ロッソ ポンペイアーノ*特別限定品 ¥4,400
2.シャネル史上最多9色のアイカラーパレット。マット、サテン、メタリックの質感。レ ヌフ オンブル エディシオン N°1 アフレスコ*1/26発売、特別限定品 ¥10,500
3.メタリックなグレーグリーン。上のパレットのベースとして使えば、よりインパクトを生む。オンブル プルミエール クレーム #824ヴェルデラーメ ¥3,900
4.明るいトーンのリップスティックに重ねると、新しい質感、深みと軽さが同時に叶う。これはもはや冒険。ルージュ ココ グロス #792アフロディーテ ¥3,600
5.実際にフレスコ画に使われている有名な絵の具の色番を、マニキュアに。一目で惚れる上品さと遊び心。ヴェルニ ロング トゥニュ #592ジャロ ナポリ ¥3,200
6.唇を染め上げる人気のルージュ アリュール インクからも新色が登場。マットなオレンジは春のおしゃれのスパイスに。#164エントゥジアスタ ¥4,200
7.“パステルピンクの雲”の名を持つマニキュア。見慣れた色も、ルチアの解釈を通すとエレガントでクラシカルに。ヴェルニ ロング トゥニュ #588ヌーヴォラ ロザ ¥3,200
8.10色の新色リップの中から、鮮やかなピンキッシュレッド。ルージュ アリュール ヴェルヴェット #66リンドマービレ ¥4,200*2以外はすべて1/5発売(シャネル)
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Lucia Pica
シャーロット・ティルべリーのアシスタントを経て、2015年シャネルのメークアップ部門のグローバル・クリエイティブ・メークアップ&カラー デザイナーに就任。@luciapicaofficial
Photo: Ryoichi Suzuki