2022年3月、〈ドリス ヴァン ノッテン〉から、フレグランスとメイクアップのラインが生まれた。日本発売時期は未定ながら、この美しいコレクションを紹介したい。
華やかさと静謐さの類稀な共存、そして知性。独自のテキスタイルを使い、大胆な色や柄の世界を描く〈ドリス ヴァン ノッテン〉は、ファッション界でも孤高の地位にある。品性溢れる仕上がりのなかには、いつもどこか心地よい重厚さが感じられる。
そんな人物像を、これからはフレグランスとメイクアップでも体現できるのだ。
フレグランスは全10種
リップスティックのケース4種類
本年3月にアントワープやパリのブティックなどで先行発売された〈ドリス ヴァン ノッテン〉の ビューティコレクションは、10本のフレグランスと31シェードの口紅、そしてソープやクリーム、ポーチなどの小物から成る。
「対比」というメゾンのデザインコードはパッケージでも活かされ、意外性に満ちた素材、色、柄の組み合わせが楽しい。そして、オブジェのようなプロダクトは、それを使う私たちの仕草全てがアートとなるよう設計されている。これは、デザイナーのドリス自身が、美に関してはその結果だけではなく過程のジェスチャー、習慣、ツールも重要だと感じているから。
さらに、フレグランスボトルとリップスティックケースは詰め替え可能、素材はリサイクル可能なガラスとアルミニウムを使うなど、環境にも配慮。
そして美とは、予想だにしない展開を見せるもの。香りや色づきも、驚きの連続だ。
まずは、フレグランス。ドリスが描く嗅覚の世界は、ファッションのコレクションと同じく、感覚や感情の表現を追求していく。ボトルの形態は、調香師が使うバイアル(薬瓶)に想を得たもので、伝統的なムード。いっぽう、カラーブロックや柄の合わせ方でこれまでの常識を覆していく。香りはジェンダーレスで、1人の人間として自分をどう表明したいか、どういう気分でいたいか、を問うてくる。
10人の才能溢れる調香師が、ドリスとの対話の末、それぞれの「驚きと喜び」を香らせた。
ジャルダン・ドゥ・ロランジュリー 調香師はダニエラ・アンドリエ。「オレンジの木の庭」との名の通り、自然が生み出したオレンジの花の二面性を描く。やさしい乳白色で甘い一方、成熟した印象を放つ香り。ボトル(100ml) €220、リフィル(200ml) €260 *日本発売価格未定
ネオン・ガーデン 「矛盾したアイデアを合わせることによって生まれる不可解な調和」が調香師ファニー・バルの狙い。アイリス根のオリスで表現された型破りな古典主義を、ミントが揺さぶる。ボトル(100ml) €220、リフィル(200ml) €260 *日本発売価格未定
ローザ・カルニヴォラ ダフネ・ブジェによる調香では、奇妙に美しく、リアルな、不完全で曖昧なバラが出現。パチュリやベチバーがそこに加わり、予想外で爽やかな仕上がりへ。ボトル(100ml) €220、リフィル(200ml) €260 *日本発売価格未定
レイビング・ローズ メゾンのアイコンでもあるバラを、ルイーズ・ターナーがモダンでスパイシーに昇華。古典的な型から自由になったバラが、ペッパーやカシュムラン、ムスクの横で新しい一面を見せる。ボトル(100ml) €220、リフィル(200ml) €260 *日本発売価格未定
カンナビス・パチュリ 木材とガラスが組み合わさったボトルは、そのままこの香水を物語る。「クラリセージの新緑の葉とパチュリのウッディな葉が擦れ合うような、光と影の嗅覚の模様を表現しています」とニコラ・ボンヴィル。ボトル(100ml) €220、リフィル(200ml) €260 *日本発売価格未定
サンタル・グリーナリー ニスリン・グリリーの手によって生まれた、無限と儚さの共演。つけた途端ベルガモットやグレープフルーツが弾け、その後はイチジクの葉やサンダルウッドへと続いていく。ボトル(100ml) €220、リフィル(200ml) €260 *日本発売価格未定
ブードゥー・チリ ニコラ・ボーリューが着想を得たのは、ジミ・ヘンドリックスの音楽。どこか歪で濃密なローズマリーに、軽やかなパチュリが相対する。ベースを支えているのは、意外にもウッディノート。ボトル(100ml) €220、リフィル(200ml) €260 *日本発売価格未定
ロック・ザ・ミルラ パリのブティックからインスピレーションを受けたというアメリ・ジャカン。「美しく装飾されたミルラ(没薬)」というイメージのもと、豊富なミルラの周りにヒノキやピンクペッパーを躍らせた。ボトル(100ml) €220、リフィル(200ml) €260 *日本発売価格未定
フルール・デュ・マル 「金木犀を使い、コントラストのある香水を作りたかった」というクエンティン・ビスクがたどり着いたのは、一見無垢なのに官能的で動物的ですらある一本。「悪の華」の名のとおり、天使と悪魔の二面性を持つキャラクターを描く。ボトル(100ml) €220、 リフィル(200ml) €260 *日本発売価格未定
ソワ・マラケ パリのマラケのブティックでドリスのシルクドレスに恋をしたマリー・サラマーニュは、絹(ソワ)のように肌に溶け込むノートを構築。チェスナットとシルクが出合い、次第に仲を深めていく。ボトル(100ml) €220、リフィル(200ml) €260 *日本発売価格未定
さてリップスティックコレクションの背景にあるのは、口紅との恋物語への深い理解。つまり、それはまずケースから始まって、次に中のリップの色、次に唇にのせたときの感覚、香り、成分、そしてその色が与える印象に至る、ということ。
4種類のケースは、メゾンのコレクションの生地にインスパイアされ、トップとボトムで全く別種類の色柄が組み合わさる。リフィルとなっているリップスティックは、サテンとマット、シアーの質感全てで30色、そこにクリアバーム1色が加わる。ローズヒップオイル配合で、唇にも優しい。
ケースのトップ部分を外すと、口紅がすっと佇んでいる。4種類のケースと31色のリップスティックのコーディネートに悩むのも、醍醐味のひとつ。リップスティック €69 、リップスティック リフィル €35 *日本発売価格未定
コーラル・セラミック 白いセラミックに描かれたような青のモチーフと、ジャスパーコーラルの出合い。斬新だけどどこかハーモニーを感じるケース。リップスティック €69 *日本発売価格未定
ネオン・プリント モノクロームの“アニマリエ”プリントが、春を象徴するネオングリーンと衝突。美はいつも意外性に満ちている。リップスティック €69 *日本発売価格未定
マラカイト・スネーク トップには、ビジリアングリーンとブラックミネラルが踊る。ボトムはアンバー&ブラックのスネーク柄。リップスティック €69 *日本発売価格未定
クロックワーク・レザー 燃えるようなオレンジと妖艶なブラックスネークが強いコントラストを描く。ドリスらしい色とテクスチャーのぶつかり合い。リップスティック €69 *日本発売価格未定
ドリスによると、ビューティーラインへの挑戦は「クリエイティブなピンポン」。ただ、調香師やメイクアップアーティストとのアイデアの交換には、勝ち負けはない。異なるスペシャリティはやがてひとつの根っこにたどり着き、新しい美の世界を生み出したのだ。
ドリスが見せる「あり得ない組み合わせ」。肌に唇にまとって、自分自身の美を見つけたい。