フレグランスの世界〜第二章 メゾンと香り

いい香りを纏うレディには、幸せが訪れるという。 見ているだけでも美しい、香水の奥深い世界を紐解きます。


香水というと、化粧品のひとつに数えられるかもしれない。けれども、化粧品会社が香りの市場に参入したのは、主に戦後。それまでは香水専門店のほか、シャネルやディオール、ランバンといったパリ発のメゾンブランドが手がける「デザイナーズ・フレグランス」が、香りの世界をリードしてきたといわれている。

「デザイナーズ・フレグランスを纏う魅力のひとつは、そのブランドが大切にする世界観を、香りを通して自身に投影できること。第一章でも取り上げたように、香りには脳へ直接働きかけ、意識改革を起こす働きがあります。ハイブランドの洗練された香りを纏うことで、内面から自然と自分自身を高めることができるのです」(牧野さん)

クリスチャン・ディオールはブランド創設時に、現在も残る名香〈ミス・ディオール〉を発表した。そして、〈シャネル〉の初代フレグランス〈No.5〉も、オートクチュールコレクションを初めて発表した約6年後に誕生している。その多くが、ブランドが成熟する前にフレグランスを発表し、デザイナーたちは本業であるファッションと同じ情熱を、香り作りにも燃やしていたといわれている。では、なぜメゾンブランドは、香りというファッション以外の分野に重きを置いたのか?その答えのひとつは、香りがコーディネートを完成させる極めつけのエッセンスだから。香りを伴わないファッションはメゾンブランドのデザイナーたちにとって味気なく、服装と香りが調和して初めて女性としての完全な美しさがあるという考えが、当時から根づいていたのだ。

その流れは、近年発売されたデザイナーズ・フレグランスにも受け継がれている。たとえば、〈イヴ・サンローラン〉。その昔、農夫が着用するスモックとして扱われていたブラウスを、シルクとシフォンでエレガントなクチュールデザインに生まれ変わらせた功績をもっている。そして、そのスキャンダラスな驚きは、ブランド躍進のきっかけともなった。今春、〈イヴ・サンローラン〉から発売された新香調〈ブラウス〉は、そんなブラウスにオマージュを捧げた、柔らかくまろやか、かつ深みがあってセクシーな香りに仕上がっている。また、旅をキーワードにした〈ルイ・ヴィトン〉は、この春の新作〈ルジュール・スレーヴ〉に、トラベル用のスプレーセットも用意。世界観は然り、それぞれのブランドがもつ粋まで堪能できるのも、デザイナーズ・フレグランスの醍醐味に違いない。

 

(右から)

柔らかくてまろやかな クチュールブラウスに魅せられて。

センシュアルで品格高いダマスクローズとクリアな心地いいハーブアロマが出会い、シルクのようになめらかで繊細、かつ奥深い香りを紡ぐ。店舗限定発売。
ル ヴェスティエール デ パルファム ブラウス 125ml ¥35,000(イヴ・サンローラン・ボーテ 03-6911-8563)

 

かつては黄金よりも希少だった 〝ミルラ〟がアクセント。

刺激的で忘れがたい香りを放つミルラと、可憐で繊細なノバラ。対極にあるもの同士が惹かれ合い、ミステリアスな香りを奏でる。6月23日発売。
オードトワレ ナチュラルスプレー ミルラ エグランティーヌ 100ml ¥31,000(エルメスジャポン 03-3569-3300)

 

希望に満ちた旅の幕開けを 予感させるポジティブな香り。

新鮮でパワフルな朝の光を、豊潤なマンダリンを基調に表現。青々としたジャスミンサンバックやわずかに鼻をつくブラックカラントがさらなる爽やかさをもたらす。
ルジュール・スレーヴ 100ml ¥30,000(ルイ・ヴィトン クライアントサービス 0120-001-854)

 

■「フレグランスの世界〜第一章 記憶と香り」はこちら

参考文献:広山 均『香り選書5 香りの匠たち ─香水王国フランス賛歌─』(2008 フレグランスジャーナル社)/ジャン=クロード・エレナ、芳野まい訳『香水 ─香りの秘密と調香師の技』(2010 白水社)
相良嘉美『香料商が語る東西香り秘話』(2015 山と渓谷社)/サビーヌ・シャベール、ローランス・フェラ、島崎直樹監修、加藤 晶訳『フォトグラフィー レア パフューム 21世紀の香水』(2015 原書房)

Photo: Masahiro Sanbe Styling: Yuriko E Text & Edit: Masumi Kitagawa Shooting cooperation: Morita Antiques

GINZA2018年7月号掲載