vol.2 1929年生まれの#jbeauty
Instagramのビューティ村でいま人気なのは、ひと頃の#kbeautyではなく#jbeauty。東京オリンピック&パラリンピックを前に仕掛けられた匂いもしないではないけど、日本発信のコスメやスキンケアの盛り上がりを見るのは楽しい。
日本女性の美しさと聞いて思い浮かぶ人がいる。
作家 須賀敦子さんが亡くなって今年で20年。『須賀敦子の旅路』(文藝春秋)刊行を記念して先日行われた代官山蔦屋書店でのトークショーに足を運んだ。須賀さんの年表を眺めていて、”1929年生まれ”という表記に胸がざわっとした。向田邦子さんと同じ誕生年ではないか。
向田さんといえば、ドラマ黄金時代に欠かせない脚本家。小説に着手したのは40代後半になってからで、直木賞を受賞したのは51歳のとき。飛行機事故で亡くなるまで、書いて書いて、書きまくった生涯だった。
いっぽうの須賀敦子さんは、海外旅行もまだ珍しかった時代に単身ヨーロッパに渡り、イタリア人と結婚してミラノで暮らすという経験をした女性。ナタリア・ギンズブルグやアントニオ・タブッキなどの日本語訳で知る人ぞ知る存在だったが、彼女のユニークな視点に惚れ込んだ編集者からは「あなた自身が本を書いたら?」という誘いがいくつもあったという。
須賀さんがすごいのはここから。褒められても決して木に登らなかった。20年もの間!人生をきちんと咀嚼し、言葉が血肉となって普遍の扉に通じるまでは一文字も書かなかった。おらおらでひとりいぐも──かどうかは今となっては分からないけれど、60代にして初めての著書『ミラノ 霧の風景』で文壇に衝撃を与えた事実を見れば、20年という熟成がどれほど豊かで切実なものだったかが分かる。
ともにエッセイの名手。世界との距離の取り方に、独自の尺度とおかしみがあった。何より、書くことを畏れていた…と思う。才能も実績もあるのに、「あなた、お先にどうぞ」という仕草が不思議と似合う点でもふたりはよく似ている。
この国ではいつの時代も、謙遜やわきまえることから”素敵”や”かっこいい”が生まれてきた。現代の#jbeautyが「わたし」を一歩引いてみる粋の上にこそ咲き誇るものであってほしい。美しいものを編集する仕事に就く一介として、ふつうの戦士はそう思ったのだった。
今月の武器
きめ細かい泡が”湧き出てくる”かのような気持ちよさ。自分の髪がこんなに滑らかで重量があったかと驚く。95%が天然由来成分。日本生まれ、まさに#jbeautyなブランド。左から、THREE スキャルプ&ヘア オーダレンジ シャンプー 250ml ¥3,000 同 コンディショナー 165g ¥3,300
取材から帰ってきたときや長時間の打ち合わせの後、”花畑”と名のつくオーデコロンを霧状のアーチにして、その中をくぐる。リッチな香水では重すぎるとき、素晴らしいリフレッシュになる。ラルチザン パフューム シャンド フルール オーデコロン 100ml ¥17,000
肌は潤っていてほしいが、身の回りは24時間除湿していたい季節。不快な気持ちをリフレッシュさせてくれる”除湿系”コスメの筆頭にあげたいのがこのミスト。潤いを与え、メイクの持ちもよくしてくれる。昨年限定発売した人気アイテムが、この夏限定で復活。柚子の奥ゆかしい香りは、まさに#jbeautyのひとつ。スック センティッド ハイドレイティング ミスト YN 60ml ¥5,000 限定発売中。