仕事帰りの疲れた自分の顔が、地下鉄の窓に映ります。直前まで頭をたらしてスマホを見ていた顔はぬっぺっぽう(妖怪)のように垂れ下がり、これは我ながら酷いなぁと驚くことが増えました。「お肌の曲がり角」とはよく言いますが、歳を重ねるごとに肌だけでは済まず、「顔そのものが全力でヘアピンカーブを曲がっている」ときがあります。私は鍼灸師なので、そんな日は顔と頭に鍼を打ちまくり、身体には灸頭鍼(鍼の上に艾を乗せて燃やす治療)を施して、「さっきのカーブ、なかったことに!」という状態へと強引に引き戻します。
美容鍼灸の修業時代、ボトックス注射(筋肉の収縮を抑制しシワをなくす注射)をした部分に鍼を打っても大丈夫かしらと思い、自分の身体で試したことがあります。せっかくボトックスで表情筋を麻痺させるなら、ちょっと面白いところに打ってどうなるのか観察してみようと、左右の”口角下制筋”に注射をしてもらいました。への字口を作るための口角から下に向かって伸びる筋肉を麻痺させてみたのです。口角が下げられなければ、笑顔を作りやすくなるのでは?すると自然に笑顔の時間が増え、その効能で印象も体調も良くなったら嬉しいかも、と期待しました。
笑うことには大きな健康効果があるとされており、自律神経の調整作用をはじめ、ドーパミンやエンドルフィンの分泌を促して脳血流量を増大させ、ナチュラルキラー細胞を活性化させ免疫力が向上すると言われています。
ボトックスの効果が最大に発揮され始める2~3日後に、鏡の前で口角を上げ下げしてみます。おぉ、確かに、口角が下がりづらい!片側はほとんど動かせないくらいです。しかしもう一方の口角は、微妙に引き下げることができるままで、「コロッケがまねをする美川憲一のあの口」になってしまいます。な、なぜ左右にこんな違いが…?と思いましたが、考えてみれば私の表情筋自体がもともと左右対称ではないので、均等に打ってもらったところでこういった多少の差はあって当然です。そして、口角が下がらないので笑顔を作りやすくなったかといえば、下方へのテンションが減るぶん口元の動きやすさはあるものの、自然と笑顔が増えるほどでもない…という地味な結果に終わりました。
動かしたいのは眼輪筋と大頬骨筋
笑顔を健康の底上げに用いようと思いましたが、無理矢理つくったニセの笑顔で果たして健康になれるの?という疑問も湧いてきます。そこで、スマイルトレーナーの元を訪ね「笑顔レッスン」を受けてみました。作り笑いであっても「笑っている楽しい状態だ」と脳へ働きかけるには、目元の「眼輪筋」と口角を上げる「大頰骨筋」を動かせばいいとのこと。ほかの表情筋はリラックスさせたまま、この2つの筋肉がしっかり動くように練習していくのですが、大きく笑えば笑うほど、自分の顔が怖くなるのはどうしてでしょうか…。
割り箸を横一文字に前歯で咥え、口角を上げる練習を繰り返します。先生のコールに合わせて左右の口角を交互にゆっくり「1・2・3」と引き上げるなど、鏡の前で格闘すること30分。練習前よりはるかに口角が上がり、力まず笑えるようになってくると、ホラーだった笑顔もそれなりに見えてきます。でもっ、でも、笑顔って…疲れるなぁ。
健康法としての「笑い」と「セックス」
笑いのもたらす健康効果に着目し、考案されたもののひとつに、インド発祥のラフィングヨガがあります。ヨガのポーズをするのではなく、みんなで輪になってただひたすら笑い続けるというもの。
実際にやってみると、始めは面白くもないのに笑えないと思っていても、不思議と楽しくなってきます。普通は「楽しいから笑う」のですが、逆も然りで「笑うから楽しくなる」。ひとは誰かが笑っているのを見ることで副交感神経優位のリラックス状態となり、自分も笑いやすいコンディションになるようです。
房中養生にも同じような考え方があり、セックスによるスキンシップなど「好きな人と肌を合わせる」ことがオキシトシンやエンドルフィンの分泌を促し、免疫力向上につながるとされています。また、性と健康のためには「恥ずかしがらず、どんどんあえぎ声を出してみましょう」と提案しています。普通は「気持ちいいから声が出てしまう」のですが、逆も然りで「声を出すから(それによって興奮が高まり)気持ちよくなる」のです。
ほうれい線対策には「迎香」ほぐし。笑顔をキレイに作るポイントは「地倉」のツボ。