街にあふれるマッサージ店やリラクゼーションサロン。その看板が目に入るたびに「多くのひとが他人の身体を触る練習をしたことがないのに、セックスでは当然のように気持ちよく触らなければいけないなんて、難しい要求をされているなぁ」と、考えてしまいます。例えば「キミ、明日からリラクゼーションサロンで働いてくれたまえ!」と言われても、「え、いきなり!?何か研修とか、施術のマニュアルとか、そういった指導的なものは?ないの?」と慌てることと思います。ひとの身体に触れて、しかも気持ちよくリラックスさせるなんて、極めて高度な技術ではないかと思うのですが、それをほぼぶっつけ本番でこなさねばならないのがセックスです。
性に関する「知識」は雑誌やネットなどで容易に手に入りますが、「実践」に関しては多くの人が手探り状態で、自分なりの正解を「こんな感じか…?うん、きっとそうだ、相手もそれなりに気持ちよさそうにしてくれているし」というふうに掴んでいるのだと思います。ベテランの寿司職人が毎回同じ量のシャリをするりと手に取るように、私たちもセックスの回数を重ねれば重ねただけ、的確なセンシュアルタッチを身につけることができるのでしょうか。セックスの具体的な練習って本当はもうちょっと必要なんじゃない?
聴いてください、「愛撫のためのエチュード」
例えば、心臓マッサージをするときの回数とリズムは1分間に100回くらいが理想とされていて、『世界に一つだけの花』『アンパンマンのマーチ』などのBPM100の曲にあわせると適切なテンポになるそうです。そこで、“効果的な愛撫のリズム”を刻む音楽を作って、それに合わせて練習したらいいのではないかと思い、音源を用意しました。
ひとの「触れて気持ちいい」「触れられて気持ちいい」という感情と関わる“c触覚線維”を興奮させるためには、「速度」と「柔らかさ」が必要とされていて、秒速5㎝程で動くベルベットのような刺激に最も反応するようになっています。そしてこの愛撫に反応するc繊維は手のひらと足の裏にだけ存在しません。
よく「気持ちいいマッサージは施術者の手の動きがゆったりしている」と言われます。ところが、マッサージの受け手は1秒5㎝という緩やかな刺激を好むのに対し、c繊維のない施術者の手のひらはもっと速いリズムを心地よく感じます。マッサージを始めたばかりのひとは、自分の手が気持ちいいテンポで相手に触れてしまいがちですが、それよりもぐっと緩やかで受け手が気持ちいいと思う1秒5㎝のリズムを刻めるようにしていくことが、マッサージ技術の向上につながります。そして、愛撫に関しても同じことが言えるのです。
1秒5㎝の移動を習得するためのツボはここ!
指先を揃え、自分の指紋をビロードの毛羽のごとく整えたら、歌に合わせて〈陰廉(いんれん)〉〈血海(けっかい)〉という2カ所の太もものツボを往復してみましょう。〈陰廉〉は太ももの少し内側でそけい部から指3本下、〈血海〉は膝のお皿の上端から指3本上の前内側にあります。平均的な大腿の長さから割り出して、この2つのツボの距離を5秒で移動することで、1秒あたり5㎝程度の移動距離となり、c触覚線維を興奮させやすい刺激が可能になります。
どうでしょう。思ったより、ゆっくりとした触り方ではないですか?
ぜひこのリズムに合わせて、自分の太ももでタッチの練習をしてみましょう。そして同じようにパートナーの太ももを撫でたり、背中や腕に指先を這わせてみたりしてください。セクシャルなシーンだけでなく、家族へマッサージにも応用できるこのリズム。肌のふれあいで副交感神経を優位に整え、セロトニンやオキシトシンの分泌も促される“癒しのスキンタッチ”をマスターしてみましょう。