28 Apr 2018
性がキレイを決める 房中養生入門 其の十二

~セックスはエクササイズなんて言うけれど~
四十八手とストレッチの硬派な関係
数人の女性がジャージを着て集まります。そこで始められるのは「セックスの体位の再現」。房中養生講座の一環で、たまにこんなことをやっています。実にくだらん……と思ったアナタ、その気持ちすごくわかります。私も始めはそう思っていたのですよ、実際にやってみる前までは。
「ハイ、それでは私が正常位の女性役をやるので、男性役をお願いします。皆さん、同じように動いてみてください。そうそう、開いた足のあいだに膝立ちで入ってもらって、腕立てするように被さって……、えっ、腕でからだを支え続けるのが早くもツライ?でもその姿勢でこれから骨盤を前後に動かしてもらうんですよ、大丈夫?できたひとは女性役の腰の下に枕を入れて、片脚を自分の肩に乗せて~」なんて光景が繰り広げられます。
普段はやることのない相手側の体勢や動きを疑似体験してもらうことで、セックスの体位に関する意識が大きく変わります。普段のセックスではあまりやらないアクロバティックな体位にもチャレンジしてもらうのですが、体験後には、「セックスに柔軟性は必須」、「相性がいいというのは、パートナーと自分の筋力やバランス感なども調和がとれていることだとわかった」、「体位変換は目と目で通じあうような、あうんの呼吸が大切」なんていう感想が飛び出します。「毎日デスクワークしているだけではいけない、動かなければ!」と急に運動の必要性に目覚める方も。
セクシャル抜きで体位を試していると、誰もが自然に身体意識を強く持ち始めるという現象が起こるのですが、これが「性は養生法のひとつ」とされてきた所以なのです。
東洋医学は、広い中国大陸の地形や環境にともない地域性を持って発展をしました。寒さ厳しい北はお灸、西は豊富な鉱物を使った湯薬、東は膿を排出するための切開技術、南は汗をかき痙攣しやすい筋肉を緩める鍼治療など。そして中央内陸は湿度の高さによって手足が萎えやすく、役人など座り仕事をする人が多かったことから「導引按蹻」が発達します。「導引」とはストレッチや体操のことで「按蹻」とはセルフマッサージのこと。病気になる前に自分でなんとかするといった「未病の時点でのセルフケア」が重んじられていた時代、軽体操は健康な身体を維持するためにさかんに行われていて、少しくらいの不調なら吹き飛ばしてしまう効果があったとされています。
性行為を通じて健康や若さを手に入れようとする「房中術」もこの導引の影響を受けています。特に体位と実技は、性を楽しみながら長生きをするための強健法ともいわれており、房中術の古典に記載されている体位は、筋肉、関節、内臓、血行、脈行、神経などの強化や回復を目指し、全身の機能のバランスを整えるように工夫をこらした一種の衛生体操でした。健康を守り、病気の予防をはかりつつ、正しく行えば部分的な疲労を除去することもできるとされています。東洋の性典に記載されている多くの体位は、性的享楽を増進させるだけでなく健康を害することを避けさせ、体力づくりに好い影響を与えるものという実際上の意義を持っていたのです。
ふと、平安時代に編纂された日本最古の医学書『医心方』には、果たしていくつの交接体位が出てくるのだろうと思い調べてみました。
- 黄帝が門外不出にしたいと言ったという「九法」……9体位
- 数多くの体位の指南とされていた「三十法」(うち4つは交接体位ではなくて“屋外で行う”というシチュエーションについての記載)……26体位
- 女性の病を治すスタイルの「八益」……8体位
- 男性の体調不良を回復させる「七損」……7体位
さらに「三十法」の中には3人で行う交接体位があるので、それを除くとちょうど縁起良しとされる四十八手!これをすべて盛り込んだトレーニングメニューを作ったらかなりハードになりそうです。
デスクワークで運動不足のみなさん、もし気が向くようでしたら「四十八手 体位」なんてキーワードで検索をして、「ストレッチ」や「筋トレ」というマインドでその体位に挑戦してみてください。東洋の叡智から生まれた、セクシーにも応用が利く新たなエクササイズをどうぞ!
鰻澤智美
ヨガ、鍼灸、カウンセリングをベースに、房中養生によるヘルスケアに取り組んでいる
アートワーク/ancco
Painter, Illustrator
2011年よりあんことして絵を軸にした活動を始める
作品を発表しながらイラストレーションやデザインの仕事も行う
https://www.instagram.com/
Illustration: ancco