31 May 2018
性がキレイを決める 房中養生入門 其の十三

薬膳鍋でドーゼオーバー!?
食卓と寝室をつなぐ媚薬のレシピ
漢方食材がたっぷりと入った美味しい薬膳鍋の店が銀座にあります。私はあまりお酒が飲めないので、ゆっくり話をしたい友人と一緒のときなどに、よくお鍋のコースを食べに行きます。もうもうと沸き立つ煎じ薬のような香りの湯気を浴びながら、見たことのないキノコに舌鼓を打ったりするのですが、いつも食べ終わって5~6時間ほど「お腹の違和感」が続きます。はじめは「ちょっと量が多過ぎた?」くらいにさほど気にしなかったのですが、「毎回このお鍋をいただくと何かお腹に感じるものがあるなぁ」と思うようになり、先日お鍋を楽しんだ直後、懇意にしている漢方薬局の先生にメールで尋ねてみました。
鰻澤「先生~~!ちょっと聞きたいのですが、本格的な薬膳鍋を食べて、その薬効で少し体調が乱れたりすることはありますか?(さっき撮ったばかりの鍋の写真を添付して)例えばこんな感じの、生薬にもなる食材がたくさん入っているもの」
漢方薬剤師「薬膳といっても、誰の体質にも合うということではありませんよ~。」
で、す、よ、ね。
同じ食材を食べても、個々の体質によって、それが身体にどう作用するかは違ってくるものです。食養生は突き詰めて考えすぎると、「健康のために食べるものを選ぶのにはもう疲れた…好きなものを好きなときに食べさせて~!」なんて気分にもなります。健康なときにはジャンクフードを楽しむのも良いですし、重い病気になってしまったら嫌でも食事内容を見直したりもするでしょう。食養生も性養生も、個人の置かれた状況に応じて取り組めばいいものだと思っています。
ですが、いつか必要になるときに備えて知っておくと、なにかといいことがあるのが東洋医学。そう思ってふと目にした記事が未来の不調の予防になり、人生が変わったりするのが東洋医学。
そんな実のある記事を目指そうと心掛けてはおりますが、これからお送りするのはちょっとユニークな「東洋医学的“媚薬ばなし”」です。
【媚薬レシピに秘められたモノ】
房中養生(適切な性行為で健康になろうという東洋医学的な考え方)には、セックスの技法だけでなく、漢方薬を使った強精法も取り入れられていて、「性機能に実効性のある生薬=媚薬」の生成・使用方法は医学古典書に数多く記されています。用いられている漢方は、今でも食材として簡単に手に入る“クコ”や“にんにく”をはじめ、“煎じた人参を100日間飲ませた鹿の鼻柱のわきを針で刺し、流れ出た血と酒を混ぜたもの”などという迷信じみたものまで、非常にバラエティに富んでいます。そんな中でも思わずうなってしまった媚薬の症例のひとつに、こんなものがありました。
「女性の年齢が28,29歳なのにもかかわら23,24歳に見えるならば、陰の気が盛んになり男性を欲します。それが我慢できなくなってくると陰部からの分泌液で衣服を汚すほどになりますが、これは女性の陰中に蠢く馬尾のような長さ三分ほどの蟲がいるためです。この蟲を退治する方法は製麺用の粉で陰茎の形を作り(長短、大小はお好みで)、綿で包んで局部に挿入します。すると蟲がくっついて出てきます。蟲を外して、また入れます。これは非常に効果の高い方法で、蟲は多くて30匹、少なくても20匹ほど出てきます」
“蟲出しのための媚薬”というていではありますが、これはおそらく女性に向けて適度なマスターベーションを推奨する内容だと思われます。媚薬の調合どころか、製麺粉を捏ねて包んで適度なサイズに…だなんて、まるで“お手製ディルドの作り方”です。
しかし、この「目には見えない不調を蟲と例え、その解消法をスマートに説く性養生の教え」に、私は深く感心しました。この古典のエピソードは自慰行為により性的欲求がきちんと満たされることで、精神の平安が訪れ、その心理状態は身体にも好影響を及ぼすという現代にも通じる真理を、しっかりと伝えてくれているからです。なにかと隠されがちな女性のマスターベーションですが、いにしえの書物に記された「女性の欲求不満を解消する知恵の処方」を目の当たりにして、「今こそヘルスケアの一環として大いに房中養生を活用すべきなのでは…」と、黄ばんだ書物に囲まれながら独りごちたりしています。
鰻澤智美 Tomomi Unagisawa
ヨガ、鍼灸、カウンセリングをベースに、房中養生によるヘルスケアに取り組んでいる
ancco
Painter, Illustrator
2011年よりあんことして絵を軸にした活動を始める。
作品を発表しながらイラストレーションやデザインの仕事も行う。
https://www.instagram.com/
Illustration: ancco