「舞妓の高帯・ヨガ行者の杖・羽生のグリグリ」で暴れる自律神経を制御せよ
「止まらない汗の攻略法!」
担当のヘアスタイリストさんがこのコラムを読んでくれたらしく、カット中の世間話がぐっとディープになってきました。
「セクシーな髪型って?」と尋ねると、「器用なひとほど髪を小さくいじりがちだから、もっと大胆に触るといいですね。アイロンも細かくやり過ぎないで、ババッと大胆に。そのほうが色気が出ます」なんて教えてくれたり、「服を着ていて決まる髪型と、裸で決まる髪型は違うよね」などと今まで話題にしづらかったことも聞かせてもらえたりします。
濡れた髪にハサミを入れてもらい「あとは乾かしてから」という指示のもと、アシスタントがふたり同時に私の髪にドライヤーをかけ始めました。ケープに包まれプチサウナ状態の私は、両サイドからの温風攻めで一瞬のうちに上半身が汗だくに。
これはまずい……。暑いとき以外にも、慌てたり緊張したりすると頭から汗があふれてくる私の体質。「汗、止めなきゃ!」と思えば思うほど、プレッシャーと恥ずかしさが相まって、さらにポタポタと汗が流れ落ちてきます。
「あっ、ドライヤー熱かったですか?首もとに冷風をあてますね!あと、冷たいお水、すぐに用意します!バリッ!(←ケープを剥ぎ取る音)」と慌てるアシスタント。なんだかほんとスミマセン……あ、そんなっ、ほかのお客様もいますし一気に冷房を強めなくても……スミマセン……。
なんてことが近ごろ頻繁に起こり、精神性の発汗にお手上げ状態な私。特にこの時期、駆け込んだ電車の車内が暑かったりすると、帰りの気温に備えたコート姿でひとり汗だくになり、そんな自分が恥ずかしくてさらに額から汗がダラダラと止まらなくなるのです。緊張や興奮で交感神経が優位になり、それによって汗が吹き出したり身体が震えたりするのは誰にでも起こり得ることだし、見ている他人はそれほど気にしないのもわかっていますが、なんとかしたいのが乙女心。
【ヨガの修行を応用してみる?】
「ヨガ=ポーズ」というイメージがありますが、本来ヨガのポーズの練習は瞑想に集中するための準備段階なのです(ほら、瞑想中に足がしびれたら気が散ってしまうでしょ?ずっと座って集中し続けるための体力や柔軟性を作るのがヨガのポーズの目的)。「ポーズ」で身体を整えたら、次に「呼吸」を整え、そしてその次に「感覚を制御する」のがヨガ修行のステップ。「感覚制御」とは”心頭滅却すれば火もまた涼し”のごとく、不安や雑念を追い払ってセルフコントロールをすること。もしこれをうまく実践できれば、急な汗に慌てることも無くなるのではないでしょうか。
ーーー2ヶ月後。
今日もふたりのアシスタントが、ドライヤーを手にして私の後方に立ち塞がります。すかさず私はイメトレしてきたポーズを繰り出すべく、ケープの下でぐっと握った両手の拳を、ナウシカのユパ様の腕十字ジャンプのごとく胸の前でクロスさせ、さっと脇の下にあてがいます。いざ、ヨガ修業を応用した「舞妓の高帯」と「ヨガの杖」戦法で、精神性発汗の攻略をスタート!
「舞妓の高帯」とは、白粉が汗で流れないよう胸の上をぎゅっと帯で締めるという昔ながらの知恵。これは「身体の左右・上下の一方を圧迫すると、圧迫側は発汗が抑えられ、反対側の発汗が増える反射現象」を使った汗のコントロール方法です。そして、こちらはあまり有名でないのですが「ヨガ行者の杖」なるものがあります。これは、こぶのついた木の杖を片側の脇の下にあてがい体重をかけるように圧迫すると、その反対の鼻孔の空気が流れやすくなり集中が促され瞑想に入りやすくなるという、ヨガの達人が愛用するマル秘アイテム。ファーストアクションで両脇に拳をはさみ、腕をぎゅっと締めて胸の上部を圧迫することで、頭や顔からの汗の抑制を試みます。さらにそこからの動きの流れで、通りの良くない方の鼻と反対側の脇を拳でグリグリと刺激します。これで鼻の通りも完璧!呼吸を制する準備はOK!吐く息が長いほどリラックス効果が高まるので「4秒吸って8秒吐く」を意識して鼻呼吸します。
【仕上げのマインドコントロール】
8割方髪も乾き「汗、大丈夫かも」と思った瞬間、急にジワッと頭皮が汗ばんできます。最後まで油断はできません!もう一押し、脳内イメージのコントロールで感覚制御を!
私の中で「汗が出始めてもコレを思い浮かべたら平常心を保てそうだ」と確信して、今日まで何度も繰り返し見てきた動画があります。そう、最強棋士・羽生善治の「勝ち筋が見えたときに指し手がプルプルと震えてしまう対局シーン」です。周囲の駒を飛ばしてしまうほどの手の震え。対戦相手は羽生棋士の手が震えた時点で負けを悟るという……。震えを押さえ込もうと将棋盤に駒をめり込ませるかのごとく指す様は、通称「羽生のグリグリ」!あの、天才棋士でも心の動きによって不随意運動が起きてしまうならば、私なんて震えるのも汗をかくのもしょうがないではないかぁぁぁ!
などとやっているうちに、無事に私の髪は乾いたのでした。これは感覚制御というより開き直りだな……と省みつつも、このように小さくても成功体験を積み重ねていくことで、緊張性発汗を克服することができるような気がしてきました。仕上げのカットを始めたスタイリストの華麗な手さばきを眺め、思わず「ベテランのこの人も、はじめは手汗や震えに悩んだりしたのかな?」なんて考えてしまいます。