07 Jan 2019
健やかな性的興奮。高めたいなら基礎を学びましょう……性がキレイを決める 房中養生入門 其の十六

「性欲を健やかに盛り上げる“性器の解剖生理”」
カンフー講座の小道具に「チャイナ銅鑼(ドラ)」を使おうと思い、楽器店のウェブサイトで購入しました。製品の音は事前に動画でチェックできて、「そうそう、欲しいのは京劇で使われているような、打った後にゴイーンッ⤴と音程が上がっていくこの感じ!」と、楽器の演奏経験がほとんどないにもかかわらず、いい感じに銅鑼を叩き鳴らす自分をイメージしながら到着を待ちました。
届いた銅鑼を思い切り叩いてみると、ゴーン……。あれ、音が上がらない。動画でちゃんと確認して、打ったあとに音程が上がっていくやつを選んだのに。ゴーン、ゴーン(まっすぐに響く銅鑼の音)。
もしかして不良品?と思い、すぐに購入店へ問い合わせました。
「実際にその銅鑼を叩いているところを撮って送ってください」というので、スマホで撮影しサクッと送信すると、すぐに懇切丁寧な返信が。バチの持ち方や力加減など、細かな叩き方のコツを綴った文面だけでなく、音の出し方の説明動画まで添付してくれています。自分の細かな間違いを正し、アドバイス通りに叩くこと数十分。だいぶ理想的な音が出せるようになってきました。気持ちよく上がって響く銅鑼の音とともにテンションも高まり、思わずカンフーの型をやってしまうなど、心と身体が踊り出します。
ひとしきり盛り上がったあと、楽器店からのメールに視線を戻すと、「どんな楽器でも良い音を出すためには、それなりの練習が必要です」という、心に刺さるひと言が。そこでふと気づきました。もしやこれ、私が常々発している「セックスの満足度を上げるには、それなりの練習が必要です」と同じなのでは……。
【必要なのはテクニックよりも“基礎知識”】
普段わたしは、房中養生という古典をもとに「性と健康の在り方」を探究し、セクシャルなことに関する悩み相談を受けたりしています。相談内容は非常にパーソナルなことなので、銅鑼の叩き方のように「実際に性行為をしている動画を撮ってもらって確認しましょう」というわけにはいきません。抱えている悩みをなんとかしたくても、性生活について話すこと、セクシャルな言葉を自分の口から発することに抵抗があるという方も多いです。
「いきなり本音で相談するなんて恥ずかしくてムリ。でもお互いのセックスに不満を持っていて、このままだと二人の関係が立ち行かなくなる……どうにかしなきゃ」とモヤモヤしているカップルが訪れたときには、テクニックや話し合いも大切だけど、まずはふたりで「性器の解剖生理」を学んでみようよ、と提案しています。男性器と女性器の模型を前に、それぞれの部位の名称、形状の特性、生理機能、性反応の原理などをわかりやすく丁寧に説明していきます。
保健体育の授業でなんとなく知ったものの、うろ覚えだった男女の性器の解剖生理を、より詳しく学び直すのです。すると、どうすれば身体は気持ちいいと感じるのか、性器のどの部分のどういった反応を目安にセックスを進めたらいいのか、適切に判断ができるようになります。基礎を正しく理解することで、応用力が抜群に磨かれるのです。
また、性器の解剖生理を学ぶのは、マンネリ気味なパートナーとの関係性を打破する一手としても有効です。新しい性の知識を頭で納得すると、次は実際に試してみたくなるもの。
「男性の陰嚢は女性の大陰唇にあたります」と聞いた後には、そこに触れる手つきや強弱が自然と変わってきます。自分の身体のこの部分と同じならば……という想像力が働きやすくなるのです。
自身の性器を知ることは、マスターベーションにも変化をもたらします。
例えば女性なら、
・膣口から5時と7時の位置にバルトリン腺液の出口があり、それが膣分泌液と混ざって性交時の潤滑さを促進している(なるほど、”濡れる”ってそんなところからも分泌されていたのか)
・陰核〈クリトリス〉は男性の陰茎〈ペニス〉に相当する。外から見えている部分はじつは氷山の一角で、体内に隠れている大部分は二脚に分かれた形状をしており、Gスポットの快感はこの陰核の脚を膣内から刺激した反応とされている(クリトリスの解剖図をぜひ検索してみてください)
なんてことを聞くと、鏡を片手にちょっと観察してみたくなりませんか?
毎日あたりまえのように排泄しているのに、自分の尿道口を今まで一度も確認したことがないという方も意外と多いので、ぜひ探してみて下さい。ついでにバルトリン腺液の出口もどの辺りなのか見当をつけてみましょう。クリトリスはふだん包皮に覆われていますが、性的興奮を受けて勃起すると男性の亀頭のように顔を現します。男性器の亀頭と同じようにクリトリスも敏感なのだな、と思いながら触ってみましょう。
性には「エンタメ的な側面」と「メディカル的な側面」があります。快楽と医療、その両者を上手につなぐのが房中養生だと思っています。一見、セクシーさとは対極の、なんだか真面目そうな「性器の解剖生理」が、実はテクニックの向上の鍵となり、私たちの性的興奮を健やかに盛り上げてくれるのです。
鰻澤智美 Tomomi Unagisawa
ヨガ、鍼灸、カウンセリングをベースに、房中養生によるヘルスケアに取り組んでいる
ancco
Painter, Illustrator
2011年よりあんことして絵を軸にした活動を始める。
作品を発表しながらイラストレーションやデザインの仕事も行う。
https://www.instagram.com/
Text: Tomomi Unagisawa Illustration: ancco