ロンドンを拠点として活動する、ヘアデザイナーの小戸紀代子さんが気になるアーティストとコラボレーションし、その人らしさをヘアで表現。アーティストのバックボーンを探るインタビューとともにお届けします。
ヘアデザイナー小戸紀代子の“WHO ARE YOu ?” vol.11
小戸紀代子 × TAIRA

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TAIRA
タイラ/モデル、執筆家
今回は世界で大活躍中の日本人モデル、TAIRAさんにインタビューしてきました。
イギリスを拠点に、同じファッション業界で活動している仲間。ジェンダーを超えて様々なブランドのショーやファッション誌に登場しています。普段、仕事を通して何を感じているのか。色々と語ってきました!
まずは、“ファッションの持つ力”の話。昔、TAIRAさんにとってファッションは鎧のようなものだったそう。「ジェンダー観をはじめ、自分の価値観が社会で“一般的”とされるものとは異なっているのかな、と感じる場面も少なくなかったので、ファッションという鎧を纏い存在しやすい環境を作っていたんです」。という話に、確かにファッションは“自分”と“社会”の間にできるギャップみたいなものを埋める役割があるなと思いました。改めて考えると、自分がファッションにのめり込んだ理由も、境遇に関係なくファッションを通して、なりたい自分になれたから。自分と環境との差を埋めることができたからだと思います。そうすることによって、同じような人達が自然と集まってきて仲間意識というのか、強い絆の友達ができた。それが何よりも嬉しかった。皆さんはどうですか?
今では、TAIRAさんにとってファッションは、トランスフォームできるツール。ヒールを履くと所作が変わる。というような、ファッションを纏い色々なキャラクターになりきることを楽しんでいるそう。私もファッションの持つ“何者にでも変身できる力”、いわゆるコスプレへの終わりのない探究心がヘアデザイナーとして活動し続けるモチベーションの源になっていると思います。
さて、今回のヘアスタイルについてですが、私が思うTAIRAさんのイメージは紫式部。どこから湧いているのか兎にも角にも高貴に見えるのです。加えてベールのような透き通った肌がより一層それを助長していて麗しい。
彼女に特別な物は必要ない!!そう感じました。
ただ、この連載はタイトル「WHO ARE YOu?」の通り、パーソナリティをヘアスタイルによって強調していくプロジェクト。一番彼女から強く感じた印象、それは“静けさの中にある凛とした強さ”だったので、エレガントな夜会巻を選びました。現代の最新スタイルではなくクラシックなスタイルを彼女には選びたかった。シンプルで古典的なスタイルなのですが流石TAIRAさん。とてもモダンに見える!!!狙い通りです。彼女の透き通ったエフォートレスなムードは消したくなかったので、ヘアプロダクトはほとんどつけず、サラサラでソフトな状態に。
今回一番驚いたのが、そのオーラ!今まで何人かのトップモデルと呼ばれている方たちとご一緒させてもらう機会がありましたが、みんな同じ雰囲気を持っていてTAIRAさんからもそれを感じました。そして撮りはじめた瞬間、彼女からの圧でシャッターを押させられている。そんな不思議な気分を味わえて感動しました!!いつもカメラマンさんはこんな気持ちなのでしょうか?
撮影後に、「ファッションが今、変わってきているように感じるよね」という話にもなりました。お店に出向いて購入するしかなかったラグジュアリーブランドのアイテムがファストファッションと同じようにオンラインで購入できたりする。例えると、伝統ある歌舞伎役者が舞をYouTube配信するような感じなのでしょうか?オンラインショッピングが始まった時にイギリス人のファッション評論家をやっている友達が「Oh my god!」と、言っていたのを思い出しました。というのも、それはラグジュアリーブランドの立ち位置が彼の中できっと大きく変わったことを示す出来事だったから。この最近の動きは、個人的には“クオリティ”という概念の変化を表しているのかもしれないと思います。現場でも短い時間でどれだけ面白い物が作れるか?という違ったクオリティ競技になっているような場面もあります。とても商業的で質より量。それが悪いわけじゃない。ただ、質にこだわる人達も同じくらい需要のある世の中になってほしいと思います。こういった色んな価値観が高速回転している中、TAIRAさんは自分を通して、多様性の在り方についてきちんと言及していきたいと言っていました。海外でのファッション業界歴が自分は長いからなのか、個人的には今、多様性のゲートは大きく開かれていて、その人の肌の色や性別よりも、どんな価値観やアイデンティティーを持って生きているのか?ということに関心が集まっているように感じます。とはいえまだまだこれからな部分も多いかと思うのでTAIRAさんの活躍をとても応援したいと思っています。
Photo&Text_KIYOKO ODO



