3人の男性が連続して不審死した「木嶋佳苗事件」から8年。今年4月に上告が棄却され、5月に死刑が確定した。4月に上梓された「BUTTER」は、木嶋死刑囚と事件をモーチフに描かれた長編小説だ。バターのせご飯、たらこバターのスパゲティ、バターのせラーメン…高カロリーの美食ばかりが登場するのには理由がある。「食べたい、欲しくてたまらない」という渇きはこの小説を貫く力強さに欠かせない材料だから。
週刊誌の記者である主人公・里佳は、不審死事件の被告との面会を許され、独占インタビューの約束を取り付ける。しかし挑発され、肩透かしをくらい、一筋縄ではいかない。被告の心を知ろうとすればするほど、いつしか里佳も取材対象と同じように太っていく。しかし不思議なことに、この国では軽蔑や嘲りの標的となる「デブ化」によって、別の漲りが里佳を満たしはじめる。食べることに本気で向き合ったら、それまでとはまったく違った景色が見えてくるのだ。魅力が丁寧に”肉付け”され、人間味溢れるしたたかなヒロインへと脱皮していく。血と肉を満タンに搭載して世界を掴みに行った彼女の跳躍に、ラスト、胸が踊った。