クォーター・ライフ・クライシス。それは、人生の4分の1を過ぎた20代後半〜30代前半のころに訪れがちな、幸福の低迷期を表す言葉だ。27歳の家入レオさんもそれを実感し、揺らいでいる。「自分をごまかさないで、正直に生きたい」家入さん自身が今感じる心の内面を丁寧にすくった連載エッセイ。前回はvol.53 わかった気でいない為に。
家入レオ「言葉は目に見えないファッション」vol.54 見つけてほしいかくれんぼ
vol.54見つけてほしいかくれんぼ
頭が回らなくなってきた…かまわずパソコン画面に文字をタイプし続けようとして諦める。一旦何か食べよう…窓に目をやるとレースカーテンをスクリーンにきらきら眩しい木漏れ日の上映会。しばらく放心したようにその風景を見つめ、席を立ち大きく伸びをする。ソファの肘掛けに並べてある読みかけの本の中から、今日の気分に合うものを1冊選び財布と一緒に鞄に入れる。玄関に出しっ放しのスタメンスニーカーに足を突っ込み、鍵を閉めながらもう片方の手でジーンズの後ろポケットにスマホが入っているのを確認し家を出た。
駅前にあるチェーンのハンバーガーショップはお昼の3時を回っているのに随分と混み合っていた。どの時間帯でもワンドリンクで気軽に入店できるのは確かにありがたいよなーと列の最後尾に並びながら、レジ上に掲載されているメニューに目を走らせる。アボカドチーズバーガーのセットを頼むと思っていた以上に高めの会計になってびっくりした。これだったら少し先のハンバーガー専門店に行けば良かったかもー、と思いながら近所の公園へ向かう。
公園自体は決して大きな作りではないけれど、奥に進むとある広場は大きな木が円形に植えられており、自然が作り出す丸い天窓から見るここの青空が私は大好きなのだ。リフレッシュしたい時や悲しくなった時にも来るし、パソコンを持ち込んで仕事をすることもある。
西日が私の頬を照らし、同じあたたかさで辺りを包み込んでいる。デッキチェアに座り缶ビールを美味しそうに飲む横顔。レジャーシートの上で手を重ね合う恋人たち。本で顔を覆い眠る老人。私は1番奥にあるベンチに座ると、ビニール袋の中のカップホルダーからアイスコーヒーを素早く取り出し、蓋にストローをさしたと同時に口に運んだ。喉がカラカラだった。もう1つの袋からハンバーガーを取り出し、白の包み紙から現れたそれにかぶりつく。口の中に広がる塩味と旨味。空腹が1番のスパイスと誰かが笑って言っていたのを思い出す。ポテトは出来立ての湯気で紙がほんのり湿っており、それでも外で食べるのには勝らないと私は嬉しかった。
遠くから小さな女の子がこちらに向かって駆けて来る。と、私が座っていたベンチの後ろに座り込み「隠れんぼしてるの!ちょっとここ貸してね!」。私が「オーケー!」と言うと、ニコッと笑って「あのね、誰かここにいますかー!って聞かれたら、誰もいませんですよー!って言うんだよ?分かった?」と5回は確認され、うんうんと頷いていると今度は小さな男の子がこちらに駆けて来た。「あっ!」と目配せし合った私たちは会話を中断し不自然に黙り込んだ。本を読む振りをして、男の子の様子を窺うと全くこちらに気付いておらず、違う場所を探そうとしている素振り。上手くいきそう、と私が思っているとベンチの後ろから「ランラララン〜♪」と歌声が。その歌に反応した男の子がこちらに大急ぎで駆けて来て「あーーー!みっけ!」。笑い声が響き渡り、私の笑い声も一緒になって公園に響いた。「見つけてもらいたい隠れんぼ、ってたまーにあるよね」と私はその女の子の揺れる髪を見つめながら思った。
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家入 レオ
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