友達にパートナー、両親、同僚。大人の人間関係は少々フクザツだけど日々ストレスなく気持ちよく付き合っていくために大切なマナー。いま必要なヒントをさまざまな分野の専門家たちに教わってきました。
心の空きスペースが利他的つながりを生む【人間関係のマナー】
お話を聞いた人
中島岳志さん(政治学者)
心の空きスペースが利他的つながりを生む
ここ最近、よく耳にする「利他」という言葉。「他者とともにあること」から考えるから、この概念が今の人間関係を築く上でのヒントになるのではと、この分野の第一人者である中島岳志さんに話をうかがった。
「コロナ禍でマスクをする日々になりましたよね。自衛の目的だけでなく、まわりの人に感染させないためにしている人も多いと思います。また、なじみの店が危機に瀕していると聞けば、クラウドファンディングに協力した人もいるでしょう。大切な人、ものを守るために皆が動き始めたことにより、利他への関心が強まったような気がします。でも、利他ってとても難しい。『これ美味しいから食べて』と、よかれと思ってすすめても、相手がその食材を嫌いであれば、ありがた迷惑に。いわば〝おせっかい〟で、利己的な行動になってしまいます」
では、利他とは一体どのようなものなのだろうか。
「利他というと、与えるものだと思い込みがちですが、〝受け取る〟ときにこそ、発動します。過去にもらったアドバイスや故人とのやりとりなど、そのときはピンとこなくても時間を経て〝ありがたい〟と感じたときに、利他になるのです。いわば、利他は過去から〝偶然に〟やってくるといえます。利他が巡回し、人と人がつながっていく。なので、こちらに受け取るための心の余白が大切になってきます」
そのスペースを作るために、必要な心がけはあるのだろうか。
「日常の中から意識を変えていきましょう。最寄り駅のひとつ手前で降りて、散歩するだけでも新しい気づきがあったり違ってくるでしょう。料理をするのもおすすめです。食材に向き合い、シンプルに食べてみる。そうすると、自然の恵みを享受し生きていることを実感できます。インド独立運動の指導者ガンディーは、一日の中に必ず余白の時間をもち、毎朝チャルカーで糸を紡いでいたそうです。
また、偶然や運に目を向ける意識をしてみましょう。たとえ今、恵まれた環境にいたとしてもそれは自身の努力だけではなく、親や育った場所に影響を受けていることが多いのです。自分たちは元来弱い存在であるのだと自覚し、謙虚な姿勢でいることで、異なる立場の人に目を向けられるようになります。今、日本にはびこっている自己責任論が解体され、利他が共有される土台が築かれていくと信じています」
POINT
・「偶然」や「運」に目を向ける
・自分の中に「余白」(空きスペース)を持つ
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中島岳志
政治学者。東京工業大学リベラルアーツ研究教育院教授。専攻は南アジア地域研究、近代日本政治思想。『思いがけず利他』、土井善晴との共著『料理と利他』(共にミシマ社)など著書多数。