クォーター・ライフ・クライシス。それは、人生の4分の1を過ぎた20代後半〜30代前半のころに訪れがちな、幸福の低迷期を表す言葉だ。28歳の家入レオさんもそれを実感し、揺らいでいる。「自分をごまかさないで、正直に生きたい」家入さん自身が今感じる心の内面を丁寧にすくった連載エッセイ。前回はvol.71幸福な忙しさ
家入レオ「言葉は目に見えないファッション」vol.72幸福な1人
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vol.72幸福な1人
昨晩の芋焼酎と赤ワイン&焼肉のコラボレーションが手伝って朝の段階では全くなかったはずの食欲は時計の針が13時を過ぎる頃にはしっかり復活していた。人間とは本当に逞ましい動物だとこういう時思わずにはいられない。出汁の効いた物が食べたい…という可愛げのカケラもない理由から散歩がてら近所の蕎麦屋に行くことにした。
暖簾をくぐり、木の引き戸をスライドさせると店内には数人の男性客がいた。私が入ってきても誰も顔を上げず、自分の至福時間を楽しんでいることが伝わってきて、やっぱりこの店が好きだと思った。小綺麗なブラウスにエプロンをした中年女性がゆっくりこちらを振り返り「カウンターへどうぞ」と落ち着いた表情。私は小さく頷き、コートを掛け、空いていた1番端の席に座った。パーソナルスペースがしっかり確保されている一枚板のカウンター。ずらりと並んだ一升瓶を横目にメニューのページを捲る。自家製粉、全て十割蕎麦、おつまみはお酒を飲む方のみ、そして料理によって多少お時間を頂きます、と丁寧に記載されていた。蕎麦のメニューは極めてシンプルで、蕎麦そのものを味わって欲しい、というこだわりを感じた。私はとろろ昆布がのったあたたかいお蕎麦を。
店内に音楽は流れておらず、まろやかな静かさと目隠しの向こうにある調理場から聞こえてくる、釜に火を付ける音や天ぷらをあげる音。ここにいるみんなが知らない人同士で、だけど、その場にいる全員がリラックスした気持ちでここにいることが何故だか分かって。そんな空間で、すするお蕎麦は特別美味しくて。暖房ではなく、料理をすることでしか感じ得ない室内のあったかさは、お正月に実家に帰った時の安心感に似ていて。1人って良い。すぐ隣で1人を楽しんでいる人がいると尚更、とどんぶりを両手で持ち上げて、汁を飲みながら思った。
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家入 レオ
2022年2月にはデビュー10周年を記念して「10th Anniversary Live at 東京ガーデンシアター」を開催。
2023年2月15日にはニューアルバム『Naked』をリリース。収録されている「嘘つき」はWOWOWオリジナルアニメ「火狩りの王」のオープニングテーマ。 ginzamagでのインタビュー: 家入レオ、愛と憎しみの区別がつかなくなった「未完成」。
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