井ノ頭通りを行き来する度に目に入る、てっぺんにドームを戴くエキゾチックな建物が今回の目的地。東京の多様性を知る手がかりにもなる、文化や人の交差点でした。
大小のドーム屋根が目印。日本最大級のモスク「東京ジャーミイ」:東京ケンチク物語 vol.44

東京ジャーミイ
Tokyo Camii
「ずっと気になってた!」。この建物のことをそんなふうに表現する人も多いはず。渋谷から吉祥寺へと抜けていく井ノ頭通りと小田急線が交わる辺り。立派な住宅の続く周囲の景色とはまったく異なる空気感をまとって、「東京ジャーミイ」は立つ。大小のドーム屋根を載せた、白い石貼りの重厚な建物と、すっくりと空に向かって伸びる高さ41mの尖塔。列柱の間の装飾もエキゾチックなここは「東京ジャーミイ・ディヤーナト トルコ文化センター」。日本では最大級のモスク(イスラム教の礼拝堂。大きな礼拝堂をジャーミイと呼ぶ)建築で、毎週金曜日の集団礼拝日には多くのムスリムたちが訪れる。昭和初期に建設され、老朽化によって1986年に取り壊しとなった「東京回教礼拝堂」が生まれ変わるかたちで、2000年に完成。設計は、現代トルコを代表する建築家の一人、ムハッレム・ヒリミ・シェナルプが手がけている。
デザインの基本は、トルコのモスク文化の最盛期である16〜17世紀のオスマン・トルコ様式で、外観を印象づけるドーム屋根はその顕著な特徴のひとつ。なかでもひときわ大きく背の高いドームの内部が、建築の中心をなす空間=礼拝堂だ。
エントランスホールを抜けて階段を上って、大理石貼りのルーフテラスへ。大きな木のドアを開けて礼拝堂へと入ると、想像を超える大きさと美しさに圧倒されて、思わずため息がもれる。はるか頭上にあるドームは、直径約10m。周囲を取り囲む半円形の小さなドーム6つが大きなドームを支える構造で、柱のない大空間が実現している。さらに白をベースにしたこの空間、装飾の壮麗さも見ものだ。壁面、天井、絨毯、そして窓のステンドグラス……と、至るところを美しいアラベスク文様やアラビア語の文字の装飾が彩り、いつまでも見とれてしまうほど。
紛うかたなき宗教建築ではあるが、ルールを守りながらの見学が可能なのはうれしい。異文化への扉は、東京ではこんなにすぐそばにある。
東京ジャーミイ
トルコから100人あまりの職人たちが来日して建築・内装工事に携わったという。イスラムの伝統工芸を一覧する美術館のよう。1階には本格的なハラールマーケットや、各種のイスラム図書を扱う書店もある。また、各種の講座やイベントなどを行うほか、カフェも備える「トルコ文化センター」も併設している。
毎週土曜・日曜、祝日の14:30よりガイド付きの見学あり。服装にまつわるマナーなどはHPで確認のこと。小田急線、東京メトロ代々木上原駅より徒歩5分。