季節ごとの変化も美しい森の中で読書にふける。この場所に通うために移り住みたくなるような、コミュニティのための図書館を訪ねます。
壁一面の本棚が圧巻。森の中に生まれた小さな図書館「まちライブラリー@MUFG PARK」
東京ケンチク物語 vol.60
MACHI LIBRARY@MUFG PARK
まちライブラリー@MUFG PARK
三鷹駅から北西へ3kmほど。古くからの住民も多い閑静な住宅街に、2023年6月に新しいかたちの公園が生まれたのを知っているだろうか?それが「MUFG PARK」。その名の通り、三菱UFJフィナンシャル・グループが1950年代から研修所や運動場などのある福利厚生施設として使ってきた約6ヘクタールの土地を、リニューアルして一般に開放した場だ。70年以上をかけて大切に育てられてきた鬱蒼とした木立の中に、11面のテニスコートや天然芝のグラウンドなどが備わる。楽しげにテニスに興じる人々、散歩するお年寄り、木陰でお弁当を食べる親子……。瞬く間にこの地域の魅力のひとつになったこちらには、もうひとつ大きな求心力がある。それが園内にある私設図書館「まちライブラリー@MUFG PARK」だ。広々とした芝生広場に面して、緩やかに弧を描く横長の平屋建て。建物全体に勾配のある大屋根が架かり、広場側には庇が深く張り出して、半屋外の軒下空間を作り出している。圧巻なのは、軒下からも見える内部の壁一面の本棚。垂直方向の仕切りがないデザインで、本の重なりそのものが構造体なのかとすら思わせる。傾斜する大屋根とカーブの形状もあいまって、本の洞窟に守られているようだ。風の吹き抜ける軒下もまた快適!折々の気分や天気、時間帯に合わせて、陣取る場所を変えながら幾度も堪能したくなる。
さらに「まちライブラリー」による運営も特徴的だ。「まちライブラリー」は、個人や団体が自宅や店舗、病院、学校などの一角に本棚を設置して本の貸し借りなどを行う場として全国に広がりを見せる図書館。その大きな個性は、すべて“誰かが誰かに読ませたい本”であること。こちらでも、現在約1万冊以上という蔵書は、どれも有志からの寄贈によるものだ。一冊ずつに寄贈者からのメッセージや読者の感想が書かれたカードが挟まっていて、それぞれの本の奥行きをさらに広げてくれる。開館からちょうど1年ほどながら、平日、休日を問わず広い年齢層の来館者で賑わう。森の中に生まれた小さな図書館は、もうすっかりこのエリアに住むことの大きな誇りのひとつになっているようだ。
Illustration_Hattaro Shinano Text_Sawako Akune Edit_Kazumi Yamamoto