様変わりする日本橋の街並みを長く見つめ続ける日本初の“デパートメントストア”。訪れてきたさまざまな世代の人々の思い出が詰まった、宝石箱のような建築です。
日本初のデパートメントストア「日本橋三越本店」
東京ケンチク物語 vol.66
日本橋三越本店
Nihombashi Mitsukoshi Main Store

上の世代の家族や知人から「とっておきの贈り物はここに限る」なんて言葉を聞いたことのある人もいるのではないだろうか。1673年に呉服店として創業し、1904年に日本で初めての百貨店となった三越。その“本丸”が「日本橋三越本店」だ。江戸時代から五街道の起点だった日本橋のたもとに立つ石張りの威厳たっぷりの建物の歴史は、大正時代までさかのぼる。ここに新店舗が完成したのは1914年。日本初の実用のエスカレーターやエレベーター、スプリンクラーなどの最新設備が備わり、いまや三越のシンボルともいえる入り口の2体のライオン像も設置されて、観光名所のような賑わいを見せたそう。ところが関東大震災による大火で大半が焼失し、駆体の鉄骨を生かしながら1927年に修復・再建。さらに8年後に増改築を行って、現在と同じ地上7階建ての建物になる。当初からの建築設計は全て、三井本館や帝国劇場なども手がけた実力派の横河民輔率いる横河工務所(現・横河建築設計事務所)によるものだ。横河や経営陣が欧米へ精力的に視察を行い、何期にもわたって作り上げた建物は、ルネッサンス様式やアール・デコの影響がうかがえる西洋クラシック様式を代表する一軒となる。
ライオン像の出迎えを受けて店内へ。インテリアのハイライトはなんといっても、1〜5階までが吹き抜けになった“中央ホール”だ。どっしりとした柱の朱赤の大理石はフランス産、各階のホール沿いの壁のたまご色の大理石はイタリア産。はるか高くに見えるドーム型の天井にはステンドグラスやアール・デコ調の装飾がはめ込まれてホールに淡い光を落とす。さらに強烈な印象を残すのが、中央の大階段にそびえる全長10.91m、重さ6750kgの巨大な「天女(まごころ)像」だ。こちらの木彫作品は、彫刻家・佐藤玄々によって1960年に完成したもの。隅々まで精緻かつ豪華絢爛な出来栄えで、天井のガラスの上から天女が降り立ってきたかのよう。全てが一体となって、忘れられない空間体験を生み出している。歴史を重ねてきたこの建築が、2016年に国指定の重要文化財に指定されていることもまた記しておきたい。ここが現役の百貨店として使われながら大切に守り続けられていくことは、私たちにとってとても幸せなことだ。
Illustration_Hattaro Shinano Text_Sawako Akune Edit_Kazumi Yamamoto