1年半ほど前の登場と共に大きな話題となった都心のスポット。それ自体が新しい街のようなインパクトを持つ、東京ならではの建築です。
それ自体が新しい街のようなインパクトを持つ「麻布台ヒルズ」
東京ケンチク物語 No.71
麻布台ヒルズ
Azabudai Hills

東京タワーへも近い都心に「麻布台ヒルズ」が誕生したのは2023年11月のこと。レジデンスやホテル、オフィスなどが入る3棟の超高層タワーと、主に商業施設や文化施設が入る「ガーデンプラザ」、さらにこれらをつなぐランドスケープからなる一大街区の開発。街づくりへの要望を丁寧に拾いながら、30年以上かけて着工したプロジェクトだったこと、オフィスの入る「麻布台ヒルズ森JPタワー」が日本一高い約330mであること、数々の人気ショップの出店……。さまざまな角度からの話題が尽きない新スポットの登場で東京は大いに沸いたから、興味を惹かれた人も多いはず。なかでも注目は、地下鉄駅にも直結し、周辺の街並みとのタッチポイントとなるガーデンプラザだろう。ネット状のフレームがうねるように隆起し、屋根面は緑が覆う、建物というよりは地形のような、あるいは静かに息づく巨大な生き物のようなその外観!
一度見たら忘れられないこの建築とランドスケープのデザインは、イギリス人デザイナー、トーマス・ヘザウィック率いるヘザウィック・スタジオが行った。2012年のロンドン五輪の聖火台をはじめ、プロダクトやインテリアデザインのプロジェクトを多く手掛けてきたヘザウィックにとって、これまでのキャリアで最大規模のデザイン。そんな重圧をものともせずに、人々の度肝を抜く建築を見せてくれたのだ。一方、外観のインパクトが先行しがちだが、細部までデザインが行き届いているのもこの建物の凄み。例えば外観を象徴づけるGRC(ガラス繊維入り強化コンクリート)のネットフレームの表面のモルタルには、小石を混ぜて表情のある仕上げに。地下空間の敷地境界部の壁は、表面のテクスチャーが異なる濃いグレーの花崗岩のブロックを積み上げて、まるで地層が見えているようなつくりに。地階の「麻布台ヒルズ マーケット」前の天井は、枝を広げたような立体的な形状に……。隅々までまるで工芸品のようなヘザウィックのアイディアを、施工者たちが粘り強く実現したことにも感嘆させられる。大胆なデザインと日本が誇る施工技術との出合いが生んだ、世界のどこにもない建築だ。
Illustration_Hattaro Shinano Text_Sawako Akune Edit_Kazumi Yamamoto