ハイブランドのショップが、建築の面でもしのぎを削る銀座の街並みの中に新たに登場した旗艦店。徹底的にクリーンで豊か。このブランドらしい空間です。
天然石と人工素材が交差する世界最大の旗艦店「ジル サンダー 銀座」
東京ケンチク物語 No.74
ジル サンダー 銀座
JIL SANDER GINZA

思い思いに買い物を楽しむ各国の人々が行き交う銀座・マロニエ通り沿い。銀青色のグラデーションが美しい重厚な石の壁と、それをくり抜くように緩やかな曲線を描いてエントランスへとつながる深い真鍮色の金属板が、通りを歩く人々を店内へ誘う。2024年11月にオープンした「ジル サンダー 銀座」だ。角地の1〜2階、合計627m2と、世界に70店舗を展開するこのブランドにとって、最大の規模となる旗艦店。空間デザインを手掛けたのは、ロンドンとベルリンを拠点に活動する建築設計事務所「カスパー・ミュラー・クニアー アーキテクツ」だ。
空間の印象を決定づけるのは、床や壁の大部分に使われるイタリア産トラバーチン(大理石の一種)だ。床や直線的な壁には平滑な面を出した大判のタイルを敷き詰めて石自体が持つ紋様で静かに語らせる一方で、曲線壁では、石面をまっすぐに彫り込んで、ゴツゴツとした刻み目の入ったタイルを採用している。同じ素材ながらテクスチャーを全く変えることで、空間がクリーンな統一感に包まれつつも、リズムが生まれている。さらに、ブティックスペースからはストックを一切廃し、訪れた人々が自由に動き回れる“余白”をたっぷりととったプランニングも店舗空間としては驚くべきこと。これによって、2フロア分のトラバーチンがつくる美しい石の面が、どこにいてもアイテムに紛れることなく堪能できるのだ。銀座のショップというよりは、採石場に迷い込んで、自然の石=地球の一部を直接目にしているような、厳かさすら感じさせる場だ。天然素材を贅沢に使う一方で、CDケースをアップサイクルしたプラスチック什器を使っているのも面白い。溶解して色をつけ、プラスチックとは思えないほど重厚に仕上げたこの什器も、こちらの店舗のためのデザインで、クリーンの極みのような研ぎ澄まされた空間の中でかすかな遊び心を感じさせる素材選びだ。
直線と曲線、割れ肌と平滑、天然と人工物……。無駄を削ぎ落としたデザインのなかにアンビバレントな価値観が共存する、このブランドらしい世界観がぎゅっと詰め込まれたブティックである。
Illustration_Hattaro Shinano Text_Sawako Akune Edit_Kazumi Yamamoto
