岸本佐知子さんが訳す海外文学はどれも断然面白い!翻訳モノになじみがない人もたちまち夢中に。妄想、奇想が無限に広がる最新エッセイも含め、連載で全19冊をご紹介します。今回は短編とエッセイにフォーカス。#海外文学のおもしろさを教えてください
リズミカルな言葉に連れられて短編とエッセイと妄想の世界へ|翻訳家、岸本佐知子が語る海外文学のおもしろさ vol.6

リズミカルな言葉に連れられて
短編とエッセイと妄想の世界へ
小説の翻訳&編訳
『楽しい夜』
(講談社/¥2,200)
ルシア・ベルリン、ジェームズ・ソルター、デイヴ・エガーズなど、奇妙なおかしみや哀愁をたたえ、読むたびに鮮やかな驚きを与えてくれるアメリカ発の短編が11編。時代もジャンルも読み心地もさまざまな作品が並ぶ《行商のお婆さん方式》によって、岸本さんが偏愛する文学の輪郭と奥行きが浮かび上がってくるアンソロジー。
『芥川龍之介選 英米怪異・幻想譚』
(岩波書店/¥2,600)
芥川が若き人のために選んで編んだアンソロジーから20編を精選。芥川研究家で作家の澤西祐典と、英米文学を翻訳、研究する柴田元幸に加えて9人が新訳を手がけた。岸本さんが訳すのは、ダンセイニ卿「追い剝ぎ」とレディ・グレゴリー「ショーニーン」。形容と形容が響き合い、音に触れられるような愉悦の読書タイムを。
エッセイ
『なんらかの事情』
(ちくま文庫/¥600)
服を買えばなぜかそれは《猿がボタンつけをした服》で、雑踏を歩けば知らない人と手をつないでしまう。記憶スケッチにニジンスキーが紛れ込み、裁縫セットにコラボの妙を見る。好きなものは《役に立たないもの》。求めるのは《不文律の幸福》とは別のもの。小さな発見や納得のいかなさを入り口に妄想に遊ぶエッセイ集。
『ひみつのしつもん』
(筑摩書房/¥1,600)
奇想と妄想が言葉という形を与えられて疾走する。ボブ&サムの目で歌舞伎を鑑賞したり、《空から落ちてくる雨粒の一つ》に住むことを夢見たり、「ぬ」には呪術的な力があると信じてみたり。日常に潜む異質なものを礎に物語の世界を築いていく、まさに名人芸。笑いの喚起力を競う大会があったなら、岸本さんに大金を賭けたい。
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岸本佐知子
翻訳家。主な訳書にジャネット・ウィンターソン『灯台守の話』、スティーヴン・ミルハウザー 『エドウィン・マルハウス』、ブライアン・エヴンソン他『居心地の悪い部屋』、ジョージ・ソーンダーズ『十二月の十日』など。『ねにもつタイプ』で第23回講談社エッセイ賞を受賞。
Photo: Natsumi Kakuto Text: Chiko Ishii, Hikari Torisawa