暮らしの中にひとつ、大切にしている椅子がある。巡り合ったその一脚に見え隠れするのは、持ち主の人生の物語。5人の女性の、素敵な椅子のポートレイト。
🎨CULTURE
暮らしの中にひとつ、大切にしている椅子はありますか? 5人の女性の、素敵な椅子のポートレイト
ふと腰かけたくなる三本脚のスツール
阿部好世(デザイナー)
ケヤキをひとつひとつ丸く削って、中心に向かって丸みをもたせた座面に細い鉄の三本脚を合わせたデザイン。職人技のぬくもりが伝わってくる。
「デコボコと不規則に並んでる感じがすごく好きなんです。10年ほど前から什器や内装をお願いしている『KOUSEI WERKSTATT』で作ってもらったスツールで、二度三度とオーダーして今や12脚。一見華奢なのに、職人さんが丁寧に仕上げているから三つ脚でもしっかりと安定、軽く座れるのに心地いい。アクセサリーなどのディスプレイにも使っていますが、ついつい私が座ってしまいます」
あぐらもかける? 私専用の一脚
小林紀子(「watari」店主)
素朴な木工家具で知られる青山の「BC工房」で入手した一点もの。革張りのシートにいい味が出ている。
「結婚してしばらく、私の座る椅子は〈紋次郎スツール〉か、オットマンだったんです(笑)。少し広めの家に引っ越して、“そろそろ自分用の一脚を”と思っていたときに偶然出合ったのがこの『BC工房』の椅子。重心が低めの生活が好みで、ローテーブルに合う高さのものを探していたんですけれど、これが一番しっくりきました。ソファを置かなくても、この広い座面があれば十分くつろげますね」
ずっと座っていられる機能が生む美しさ
立石 郁(編集者/ライター)
折りたたみ式なのに快適な座り心地の〈CLARIN〉の椅子。座面と背もたれ部分の発色のよさで事務用品感ゼロ。
「以前、森山直太朗さんとラジオの仕事をしていた時にご自宅におじゃました際、ダイニングチェア用に使っているのを見て一目惚れしたのが〈CLARIN〉の椅子。いかにもデザイナー家具然としたものが苦手な私にとって、このフォールディングチェアはアメリカ版“用の美”といった雰囲気でとても魅力的に映りました。仕事と睡眠以外、食事から読書までほとんどこの椅子に座って過ごしています」
旅のお土産は小ぶりなTチェア
田部井美奈(グラフィックデザイナー)
北欧デザイナー家具で知られるデンマークのフリッツ・ハンセン社の〈アルネ・ヤコブセン 3103〉(Tチェア)。1970年製で味のある雰囲気。
「昔からの知り合いが福岡で『organ』というデザインアイテムのセレクトショップをやっていて、立ち寄った際に見つけた椅子です。どうやら子ども用らしい、少し小さなTチェア。アルネ・ヤコブセンのものですが特別に探していたとかではなくて、古さ具合や脚のデザインが可愛いなと思って旅の記念に手に入れました。座り心地がいいから、家で作業したり朝ごはんの時はこのTチェアが私の定位置です」
木の精に呼ばれ、大中小3サイズ所有
ハリイ笹野美江子(「POULSOFFICE inc.」代表)
「POULSOFFICE inc.」のショールームに置かれたアフリカの椅子。小さいものは18年前から愛用している。
「パリの蚤の市で小さいほうを見つけて、売っている人の話を聞いたらアフリカで1本の木を削り出して作っているという。継ぎ目のない椅子って見たことがなかったのと、“魂が宿っている”というところに惹かれて連れて帰りました。昔からプリミティブなものよりはミニマルで洗練された家具が好みなんですが、これだけは特別。その後、大きいサイズも購入しました。こうして並べると家族みたい(笑)」
Photo: Megumi Seki Text: Kenichi Aono Text&Edit: Aiko Ishii