昭和の喫茶店を紹介しつつ、その店をイメージして聴きたくなる80年代の名曲を80s好きライターの水原空気がレコメンド。Vol.11は上野駅から2分、かつての待ち合わせのメッカであり、クリームソーダの赤いチェリーが懐かしい上野「王城」へ。
前回訪れたのは山手「エレーナ」。
昭和の喫茶店を紹介しつつ、その店をイメージして聴きたくなる80年代の名曲を80s好きライターの水原空気がレコメンド。Vol.11は上野駅から2分、かつての待ち合わせのメッカであり、クリームソーダの赤いチェリーが懐かしい上野「王城」へ。
前回訪れたのは山手「エレーナ」。
上野「王城」
学生時代からアメ横にデニムを買いに行くと、必ず立ち寄っていたのが「王城」。お店の中央にはシャンデリアがあり、掘り込みの形をよく見ると大きな蝶に見える。椅子は柄入りのモケットで、起毛部分の毛足がかなり長い。それだけで、いつもうっとりしていたが、さらに壁に目をやると花の形のウォールランプが。まるで王宮に迷い込んだようなトリップ感。この地でオープンしたのが1975年。その前から他の場所で営業していたというから、正確な歴史はわからないそうだ。インテリアのほとんどは当時から変わらない。
変わらないのは内装だけでなく、クリームソーダやナポリタンなど喫茶店の王道を行くメニューも。クリームソーダには赤いチェリーがちょこんと浮かんでいる。「SNS映え」といった言葉が生まれるずっと前から、ここでは非日常の時間を演出。お茶するだけで、どこか気持ちが洗われるのは、混沌とした同じ繰り返しの日常から気持ちが飛び立てるから。
シュッとした立ち姿のアイス・ウィンナコーヒー。モケットの椅子は舞台を盛り上げる緞帳のように見えてくる。
つい撮りたくなる造形美が際立つクリームソーダ。クリームソーダよ、どうして君はそんなに美しいのか?
1階にあってガラス張り。当然待ち合わせにも使いやすい。上野駅から徒歩2分で、かつて携帯電話がなかった時代には、「王城」は待ち合わせのメッカだったそうだ。ちょっとお腹が空いたときにはフードメニューも揃っている。
ザ・ナポリタンとも呼ぶべき味わい。粉チーズをたっぷりとかけて召し上がれ。
現在のオーナーが漢方診療所の医師であることから薬膳キーマカレーもスタンバイ。ここ数年の新メニューだがとても人気なので、早めの時間を狙っていくことをおすすめします。体に良さそうな味がするー。
一日10食限定。漢方生薬入りで美容にもいいらしい。
この店の帰り道に聴きたい80年代の名曲
『眠れぬ夜』
西城秀樹
「王城」の外観って、紫色の看板があり「不夜城」って感じが少しあやしいのだけれど(笑)、それも好きなポイント。早く以前のように、仕事帰りに寄れる時間帯の営業に戻ったら嬉しいなと、そんなことを思ってこの曲を選びました。元々はオフコースの作品でカバー曲。どこか70年代の雰囲気を残しつつも、ブラッシュアップされたサウンドの中で秀樹さんがあえて淡々と(実は激しく)歌うのが好きだったなぁ。だから淡々とまた平穏な日常が戻ることを祈って、この曲を。
水原空気のひとこと
70〜80年代って、1年違うだけで機材や楽器が進化してサウンドがガラリと違うのです。新時代の訪れを感じながらも、1980年12月に『眠れぬ夜』をカバーした秀樹さんのセンスはすごい。船山基紀先生のポップなアレンジも秀逸です。喫茶店もオープンした年度でテイストがけっこう違います。ちなみにオフコース・バージョンの『眠れぬ夜』は、「王城」が今の場所にオープンした1975年発売。ぜひ秀樹バージョンと聴き比べてみてください。
紫の看板がたまらない!!
80年代好きライター。夏の扉を開け秘密の花園へ時をかける探偵物語。GINZAウェブ「松田聖子の80年代伝説」でインタビュアーも。