松江哲明監督と山下敦弘監督に聞く、ドキュメンタリードラマ 『山田孝之のカンヌ映画祭』の中で生まれた映画の実態とは?
松江哲明監督と山下敦弘監督が語る、『映画 山田孝之3D』。ドキュメンタリードラマ 『山田孝之のカンヌ映画祭』から生まれた作品とは

―2人の役割分担ってあるんですか?
松江 ドキュメンタリーなので、現場ではやっぱり山田君がいて、演出家・山下君が回してる時間なんですよね。僕は、それをどう第三者に伝えるのかを編集スタッフと作っていく。
山下 基本NGはないんですが、カメラが回っているとき僕らは必死なので、冷静にジャッジしてくれるのが松江君。
松江 あの現場は山田孝之が支配する宇宙なんです。
山下 山田君の手のひらがあって、その上にみんな集まってる(笑)。
松江 ドキュメンタリーって相手にする対象が現実だから、1人じゃ荷が重いときがあって。だから、僕にはこのやり方はやりやすいんですよね。山田孝之という人と対峙するには、やっぱり1人1人が演出家にならざるを得ないので。
山下 自分の映画を作っちゃうなんて、頭おかしいですよね(笑)。最後に己でケツを拭いたって感じするけど。
―山田さんの魅力は何だと思います?
山下 山田君って、男の子特有の何かがあるよね。中学でどこのグループにも属さない離れ小島にいて、コソコソ独自の遊びを開発してる奴らという感じ。家族もいてキャリアもあるけど、「秘密基地作りてぇよな」という欲求をチクチク刺激してくるのがうまい。
松江 キャパシティもすごい。魅力のある人なら誰を連れてきても、絶対にOKを出す人。彼というセンターがいることで、マイナスに思える存在もある種、かけ算になる。
山下 足し算が主流ななか、かけ算しかない映画だよね。 ―新作映画は山田孝之の集大成という感じなんでしょうか?
松江 インタビュー素材は6時間以上あって、彼の本音を出しているのは間違いないし、驚くような告白もある。だけど、いい意味でまだつかめない。面白い人ですよね。客観的にはスターとされる山田孝之を撮ったり編集したりするうちに、自分も見えてくるところ。みんなが「あれ、俺、山田孝之あるわ」と思えるみたいな。そういう映画って、今までなかったんじゃないかと。
―最後に、賞をとることは2人にとってどんなことですか?
山下 ご褒美以外の何物でもないですね。もらえたらうれしい。
松江 僕は、人に届ける戦略の一部だとハッキリわかりました。目標にするものでもないし、後からついてくるものだけど、このモヤモヤは何だろうという(笑)。
山下 カンヌクラスだと、人生変わるかもという恐怖もあるよね。
松江 大丈夫、山下君はパルム・ドールとっても変わらないよ。
山下 翌日から着物着てるかも。ノブ・ヤマシタとか言って(笑)。
やました・のぶひろ≫ 1976年生まれ。『どんてん生活』(99)で監督デビュー。最新監督作に『ぼくのおじさん』(16)がある。
まつえ・てつあき≫ 1977年生まれ。ドキュメンタリー監督。著書に『セルフ・ドキュメンタリー』(河出書房新社)がある。
『映画 山田孝之3D』(17)
言葉と映像を通して「山田孝之」を3Dで鑑賞する新感覚のドキュメンタリー。背景ディレクションは漫画家・長尾謙一郎、アニメーションはひらのりょう、音楽はVIDEOTAPEMUSICが担当。ドラマ、映画とループするとさらなる広がりが見えてきそう。6月16日より全国公開。
©2017「映画 山田孝之」製作委員会
Photo: Ryo Hanabusa
Text: Tomoko Ogawa