2022年1月29日(土)から3月21日(月)まで、神奈川県立金沢文庫で「春日神霊の旅 ―杉本博司 常陸から大和へ」展が開催。現代アーティスト・杉本博司が主催する小田原文化財団と神奈川県立金沢文庫が所蔵する、春日大社にまつわる美術作品や資料が展示される。
神奈川県立金沢文庫で「春日大社」がテーマの展示が開催。杉本博司の収集作品が並ぶ
「ジオラマ」「建築」などの写真作品で知られ、世界各地で展示を行うアーティスト、杉本博司。近年では建築、舞台演出などの分野でも活躍し、2017年には神奈川県小田原市に「小田原文化財団 江之浦測候所」を設立。相模湾を一望できる丘に位置するその施設は、ギャラリーや舞台、庭園、茶室などを併設したユニークな空間作りが話題を呼んだ。
杉本が深い造詣を持つのが日本の古美術。中でも長年作品のインスピレーション源にしているのが、春日大社にまつわる作品だ。768年、奈良時代に創建された春日大社は、当時大きな権力を握っていた藤原氏が首都・平城京の守護と繁栄を祈願した神社。藤原氏が祀る氏神の「春日神」を中心とした信仰(春日信仰)の本拠地だ。奈良時代以降、神と仏の世界を描いた曼茶羅や菩薩像など、春日信仰を題材にしたさまざまな美術品が作られた。杉本はこれを収集し続け、小田原文化財団に所蔵している。
春日大社を語る上でもう一つ欠かせないのが、称名寺・金沢文庫。鎌倉時代以降に東国(現在の関東・東北地方)における仏教の拠点となり、多くの「聖教」と呼ばれる仏教書が伝来した。その中には多くの春日信仰にまつわる内容も多く見られたという。
小田原文化財団と神奈川県立金沢文庫(旧 称名寺・金沢文庫)が合同で開催する今回のイベント。当時の資料や美術作品を通じて春日信仰の歴史や、春日大社と東国との関係などを知ることができる。60年ぶりに公開される「地蔵菩薩立像・春日神鹿像」や、関連作品として展示される杉本の写真作品を掛軸に仕立てた。「華厳滝図」「那智滝図」も見所だ。もう一つ注目したいのは、杉本が30代の頃に手に入れた「春日鹿曼荼羅」。杉本はその存在に魅入られ、毎日眺めることで本質を知ろうとしたという。また、それ以降、春日信仰に関連する美術品が自然と手元に舞い込むようになったとも語る。直接対面することができるこの機会に、その迫力と不思議な力を感じてみたい。
春日信仰の奥深さを堪能できるだけでなく、杉本の創作のルーツを辿ることができる本展示。ぜひこの機会をお見逃しなく。