林遣都と仲野太賀がW主演を務めるドラマ『初恋の悪魔』(日本テレビ)。自分の気持ちに気づかない鈴之介(林遣都)、自分を失う瞬間のある星砂(松岡茉優)を軸に「ミステリアス」部分も深まってきた3話を、ドラマを愛するライター釣木文恵と漫画家オカヤイヅミが振り返ります。(レビューはネタバレを含みます)→2話のレビュー
ミステリアスになってきた!『初恋の悪魔』3話。変人・鈴之介(林遣都)と凡人・悠日(仲野太賀)の悩み
ごく個人的な思いで捜査する人たち
ドラマの中の刑事たちはふつう、何のために事件を解決するだろう? 正義のため、世にはびこる巨悪を倒すため、たいせつな仲間たちのため……。
翻って『初恋の悪魔』だ。1、2話では小鳥琉夏(柄本佑)が、刑事課の服部渚(佐久間由衣)を助けたいがために。3話では鹿浜鈴之介(林遣都)が捜査の目的をはっきりと口にする。「摘木星砂(松岡茉優)さんの笑顔が見たい!」と。
誰かひとりのごくごく個人的な恋、初恋(3話にして初めてタイトルにある「初恋」という言葉が出てきた!)のために、馬淵悠日(仲野太賀)、鈴之介、琉夏、星砂の4人は動く。
だから、事件解決は彼らにとって必ずしも成功とイコールにはならない。鈴之介は星砂の抱える万引き事件の悩みを解決した。けれど真犯人が普段からよくしてもらっている人だったため、星砂は落ち込んでしまった。それを知った鈴之介は「だったら犯人など見つける必要などなかった」ときっぱり言う。正義なんてどうでもいい。彼らが大事にしているのは「思いを寄せるあの人が幸せそうか」だけなのだ。
動機が超個人的であること。そのスケールの小ささの、なんと素敵なことだろうか。正義なんて手に余る。彼らの個人的なおもい、そして捜査に参加することでその思いに協力する仲間の、なんと魅力的なことだろうか。
“変わり者”鈴之介が捨ててきた初恋
3話の鈴之介は、それまで「殺意」とさえ呼んでいた恋心を、初めて認めた。と同時に、彼は自分の「変わり者」ぶりを、改めて直視せざるを得なくなった。鈴之介は悠日に言う。
「僕には何度かの初恋のチャンスがあった。それを僕はぜ〜んぶ捨ててきた」
それは鈴之介がこれまで「普通」とされてこなかったからだ。
「普通という言葉に恐れを抱き、怯えてしまう人間は存在するんだ」
「眼の前にいる人が今にも『あなた変だよ。何か気持ち悪い』。そう言い出すんじゃないかと思って、存在を消してしまいたくなる人がいるんだよ」
「たとえどんなカテゴリーに入っても、僕は変わり者なんだ」
鈴之介の言葉が刺さる。私だって、1話から鈴之介の考えや振る舞いを見ては笑ってきた。変わり者だと思っていた。それを笑っていいと思っていた。今回も、最初に星砂を家に迎えるときの、襟が刺さるほど立ったピンクのシャツを着て両手に手のこんだ料理を持った鈴之介を、ニヤニヤしながら見てしまった。
でも、鈴之介のことを気持ち悪いとは思っていなかった、彼の変わったところは彼にしかない魅力だと思っていた。悠日もどうやら同じらしい。
「僕は自分が普通の人間だってことが恥ずかしくて。感受性のない人間だってことが恥ずかしくて生きてきたから。普通派からしたら変わり者派は全然うらやましいですよ」
悠日も私も、たぶん多くの視聴者も「やさしい」。けれどきっと、自分を「普通」だと思い、「変わっている」と笑うことで、その人を傷つけている可能性に無自覚だったかもしれない。ちょっとバツが悪くなってしまった悠日と私たちの気持ちを、星砂は軽くしてくれる。
「普通の人とか特別な人とか、平凡とか異常とか、そんなのないと思うよ」
「平凡な人を平凡だと思わない人が現れる。異常な人を異常だと思わない人が現れる。それが人と人との出会いの、いい、美しいところなんじゃないの?」
鈴之介が、そして「自分の気持ちに気づいてない」悠日が、星砂に惹かれるのがわかる。
そうそう、オープンマリッジを主張していた恋人に「僕の考えは古くて」と前置きしながらもまっすぐ自分の本当の気持ちを伝えて、そして振られた悠日の気持ちを軽くしたのも、星砂だった。
深まる「ミステリアス」部分
星砂は言う。「私の中に肉じゃがとコロッケがいる」。「同じものでできていても、全く違うもの」のたとえで悠日が挙げた例だ。
1話ラストで、自分の行動を覚えていなかった星砂。3話では会った記憶のない男から殴りかかられ、鈴之介の家に向かう途中で気づかぬうちに鍵を失くし、そして悠日の目の前で苦手なはずのトマトを食べ、口調とふるまいががらりと変わる。
そして、不審死を遂げた悠日の兄・朝陽(毎熊克哉)の、行方不明のスマホを星砂が持っていることが明かされる。雪松(伊藤英明)が、朝陽の死の10日前、彼の拳銃の弾丸が一発不明になっている事実を見つけていた(しかし、雪松は署長としての仕事をちゃんとしているのか不安になる)。肩を撃たれた星砂が杏月(田中裕子)のもとに「内緒で助けてくれ」と駆け込んでいる過去も明らかになったけれど、この銃弾は同じものだったりするのだろうか。
それにしても、自分の中に知らない自分がいる星砂にとって、捜査会議のときの鈴之介の「僕らはまず君の証言を信用する。そこから始める」という言葉はどれだけ救いになっただろう。
3話では、鈴之介と隣人・森園(安田顕)との関係がえらいことになっていた。血まみれでスコップを振りかざし、鈴之介の家の中にまで突入して「空き巣」を退治する隣人っていったい何者なんだ。そしてラストでは鈴之介の家に監視カメラが設置されていることを見破り、こっそりと鈴之介に伝える森園。このドラマに冠された「ミステリアスコメディ」のミステリアスの部分がだいぶ深まってきた。
脚本: 坂元裕二
演出: 水田伸生、鈴木勇馬、塚本連平
出演: 林遣都、仲野太賀、松岡茉優、柄本佑 他
主題歌: SOIL&”PIMP”SESSIONS『初恋の悪魔』
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Writer 釣木文恵
ライター。名古屋出身。演劇、お笑いなどを中心にインタビューやレビューを執筆。
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