林遣都と仲野太賀がW主演を務めるドラマ『初恋の悪魔』(日本テレビ)。鈴之介(林遣都)の思いをよそに、近づく悠日(仲野太賀)と星砂(松岡茉優)の距離。そして恋のために走る琉夏(柄本佑)。ドラマを愛するライター釣木文恵と漫画家オカヤイヅミが4話を振り返ります。(レビューはネタバレを含みます)→3話のレビュー
林遣都×仲野太賀『初恋の悪魔』4話。悠日と星砂の「ロン!大恋愛!」なるか、鈴之介は大丈夫?
いかにもな謎解きをメタ化する
ドラマの中で、犯人が映像で犯行声明や指令を出してくるシーンはこれまでもたくさんあった。誰もが映像を撮れるようになった昨今は、さらに増えているようにも思う。『初恋の悪魔』4話の事件もまさにそれだった。犯人が名乗る「World Hero Asociation/世界英雄協会」という大袈裟な名前、次々と出される謎解きのような数字クイズ、それを解いて答えが示す場所に行ってみたら次の問題がそこに残されているという展開。いかにもだ。
けれど、その謎解きを真剣にやるのがこのドラマの主題ではない。事件をまっすぐに受け止める服部渚(佐久間由衣)、面倒くさがる刑事課の面々、そして「いかにも」を俯瞰して見ている馬淵悠日(仲野太賀)たち、というグラデーションがある。たとえばそれがわかるのは、犯人が送ってきた映像の中で「今から私たちの居場所を教えさせていただきます」と発言したあと。
摘木星砂(松岡茉優)「これ、出されるんじゃないか?」
小鳥琉夏(柄本佑)「絶対出されるね」
犯人「クイズを出します」
悠日「出されましたね〜」
このテンポのよさ。ちょっとした会話で事件をメタ化してしまうやりとり。心に刺さるセリフ以外にも、こういう面白さがあるから『初恋の悪魔』は楽しい。
一度は離れた4色が再び交わるか
それでもこの3人は(琉夏の渚に対する「思い」もあって)、犯人の出す問題を解きまくり、さらには初めて実際に現場に行く。一方、3話の終わりから3人に心を閉ざしてしまった鹿浜鈴之介(林遣都)は協力を求められてもすげなく断る。
「困ってる人を助けたいとは思わないのか」という琉夏に「そういうことは困ってるときに人に助けてもらったことがある人に言ってくれ」「僕がたった一人心を許した友達の名は“孤独”だ」とつれない。
けれど現場でドローンに狙われた3人を、鈴之介はあくまでも「偶然通りかかっただけだ」と言いながら助ける。防弾チョッキらしきものに指なし手袋の完全防備で、ドローンから放たれた矢を防いだのは彼の愛読書『AMERICAN MURDERS』だ。
鈴之介はこの事件を3人よりさらに俯瞰で見ている。「君たちはゲームで必ず勝つ方法を知らないのか?」「他人の作ったゲームをしないことだ」と言い、犯人の出すクイズに乗っからず、ドローンの飛行可能距離から犯人の居場所を割り出そうとする。4つの事件現場からドローンの操作可能距離を測るビニールテープの色が、悠日は赤、鈴之介は青……とオープニングで使われているそれぞれの色だった(エンディングのルービックキューブも!)。ここで描かれた円のように4人が再び交わるかと思いきや、そううまくはいかない。
「歪んだ正義を振りかざしている」と犯人をプロファイルしようとする琉夏に「勝手に決めつけるな」と怒る鈴之介。「歪んだ正義感を振りかざしてるのは僕たちも同じじゃないか。こんなことをしても悪いことはなくならない。誰もいなくなるだけだ」と続ける。対立してしまう二人をいさめるように悠日が放つ「わかんないけどわかりました」というセリフには、複雑なことは置いておいてとにかく仲よくしてほしいという彼の性格が出ていたように思う。
4話では渚に対する思いが高じてやや暴走気味だった琉夏。けれど、自分がクイズを解いて明らかになった場所で怪我を負った渚を見ての「片想いはハラスメントの入口だ」「僕は、彼女に片想いという暴力を振るってしまった」というセリフは、極端に見えて、ハッとさせられるものだった。そういう側面は、きっとある。
「傷を作ること」であり、「いっしょに食べたいな」でもある
「人を好きになるということは傷を作ることだ。好きと痛みに違いはさほどない。ただマイナスとマイナスをかけあわせたときにプラスになるように、傷を分けあえたときに相殺されるだけだ」。星砂を好きになり、けれどどうやらうまくいかないと知った鈴之介の、恋愛に対する考察だ。
再び悠日たちと行動をともにした鈴之介は、ドローンから逃げる悠日と星砂が肩を抱き合うその腕を見てしまう。階段で足元が危ないときの、あるいはいっしょにジオラマを運ぶときの「大丈夫ですか?」「うん」と気遣う姿を見てしまう。星砂に対する思いがあるから、そこに目が行って、そして傷をつくってしまう。けれどその痛みは分かち合えない。星砂が傷を、痛みを分かち合う相手は、悠日なのだとわかってしまう。かつて自分と星砂に出したペアのティーカップを、いまは悠日と星砂に出して「おめでとう、幸せになってください」と伝える鈴之介が切ない。
ここで二人から否定する言葉が出ないのは、お互いに思いを持っているからだ。鍵をなくした星砂をしばらく家に泊めていた悠日。「大恋愛はないな」「小恋愛は?」「小恋愛もないよ」「ですよね」と笑い合う二人だけれど、3話では居酒屋でいっしょにご飯を食べて、家ではいっしょにカレーや冷やし中華を食べて、距離を近づけていった。
悠日の兄が死ぬ前、銃弾を無くしたのと同じ時期に撃たれた話を星砂がしても「え、よかったですね無事で」と言う悠日は、星砂から兄のスマホを渡されても、もしかしたら兄の死に関与しているかもしれなくても、そんなことよりも星砂のことを思っている。
星砂は星砂で、杏月(田中裕子)に「あの子なら受け止めてくれそうだけどね」と言われて「だから困るんだよ」と答えている。
出て行こうとする星砂に悠日は「一緒にいたのは、一緒にいたかったからです」と伝え、嫌いな食べ物と好きな食べ物を確認する。
「僕が好きなのは、トマトが嫌いでエビフライが好きな人です。僕があなたを知っています」
3話で星砂が言っていた「これおいしいな、いっしょに食べたいな。そういうことをふと思うのが好きってことなんじゃないの」。悠日はここでも「わかりませんけどわかります」と答えていた。とりあえず「わかります」と言っておく。その後、それが体感としてわかる日がやってくる。いつか、鈴之介の気持ちもわかる日がくるといい。
鈴之介の「大丈夫じゃない」姿
4話では唯一、隣人・森園(安田顕)とのシーンで鈴之介の「大丈夫じゃない」姿を見ることができた。部屋に仕掛けられていた監視カメラ。森園の協力のもと接続を外した鈴之介は、森園が3人の女性とそれぞれ自宅で親しくしている様子を目撃してしまう。
「僕が知っている以外に妻という言葉の意味はありますか」
「妻ズですね? ライオンズ、アベンジャーズ、妻ズ」
「僕が大丈夫だったことは一度もありません、そういう意味で大丈夫です」
どれをとっても反芻したくなる鈴之介の発言と振る舞い。できることならば、鈴之介のこういう面をもっと観たい。悠日たちの前でも再び、鈴之介がのびのびと「大丈夫じゃない」姿を見せてくれるときがやってくるだろうか。
脚本: 坂元裕二
演出: 水田伸生、鈴木勇馬、塚本連平
出演: 林遣都、仲野太賀、松岡茉優、柄本佑 他
主題歌: SOIL&”PIMP”SESSIONS『初恋の悪魔』
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Writer 釣木文恵
ライター。名古屋出身。演劇、お笑いなどを中心にインタビューやレビューを執筆。
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