林遣都と仲野太賀がW主演を務めるドラマ『初恋の悪魔』(日本テレビ)。
複数の殺人事件が絡みあってきた『初恋の悪魔』。摘木星砂(松岡茉優)のもうひとつの人格がどんどん存在感を増してくるなかで、満島ひかりが登場した6話を、ドラマを愛するライター釣木文恵と漫画家オカヤイヅミが振り返ります。(レビューはネタバレを含みます)→5話のレビュー
『初恋の悪魔』6話。たった一言で心を掴んだ満島ひかり、難役をこなす松岡茉優
坂元作品のミューズ、満島ひかりの登場
坂元裕二脚本作品にとって、満島ひかりが重要な役者であることは言うまでもない。
『初恋の悪魔』同様、水田伸生が演出を手掛けた『Woman』しかり、『それでも、生きてゆく』(フジテレビ)、『カルテット』(TBS)しかり。ドラマだけでなく、全県を周る朗読劇のプロジェクトを坂元・満島の二人でやっていたりもする。坂元脚本のセリフを発する役者として、満島ひかりは作り手からも、視聴者・観客からも大きな信頼を置かれている。
そんな彼女が行き場を失くした少女たちを救う女性・リサとして『初恋の悪魔』に登場した。家出した16歳の摘木星砂(松岡茉優)を匿った、星砂にとっては“家族”ともいえるリサ。けれど星砂はその二重人格のせいで、大事なところでリサを裏切ってしまう。
満島が途中から重要人物として出演する坂元ドラマといえば『いつかこの恋を思い出してきっと泣いてしまう(フジテレビ)』だ。主人公・音(有村架純)の母として1話に手紙の声だけで、後半では回想シーンで。今回も回想のなかでの登場、そしてリサが星砂の母代わりだったことを思うと『いつか〜』と似ているなとも思う。だが、今回すごかったのは、リサのセリフがたった一言だったことだ。
満島ひかりが放つたった一言のセリフ
“ヘビ女”の人格で鹿浜鈴之介(林遣都)と遭遇した星砂。マンガ喫茶の個室で「距離感が足りない!」と鈴之介が焦る夜をこえて、鈴之介の家へやってきた星砂(ヘビ女人格)はこれまでの道のりを語る。リサは、その星砂の言葉とともに紡がれる回想の映像の中に現れる。
「ここの家賃はお金じゃない、『ただいま』『おかえり』って言うことだよ」
「人生でいちばんすてきなことは遠回りすることだよ」
リサのセリフは、すべて星砂を通して語られる。「リサは風の強い夜が好きだった」とか、「頭のよくて正しくて近道の好きな人たちが」とか、そんな言葉が続くこのシーンは、ちょっと悲しいおとぎ話のようでもある。そしてその中にいるリサは、とても魅力的で、だから切ない。
回想の中でリサが自ら言葉を発するのは、一度記憶を途切れさせ、7年越しで再び目覚めた星砂と再会したときの、星砂の「ただいま」に対する「おかえり」だけ。それだけで、心掴まれてしまう。言葉のない演技で、たった一言のセリフで、満島ひかりが私たちに残すものときたら!
松岡茉優の絶妙な演じ分け
これまで私たちが見てきた星砂が主人格だと認識し、“ヘビ女”と呼ばれる星砂を忌むべき存在とさえ思っていたけれど、6話を見てしまうとそんなことは言えなくなってしまう。リサと過ごした星砂にもたいせつな日々があったのだ。星砂は馬淵悠日(仲野太賀)に「(記憶が消えてもうひとりの自分が出ている時間が)だんだん長くなってる気がする」と不安をもらすが、もうひとりの人格にとってはようやく自分を取り戻せる時間が増えたということでもあるわけだ。
悠日は、人格が変わることを恐れる彼女を支える。そして鈴之介がもうひとりの星砂の記憶を共有し、彼女を支える。星砂が「友達とか、好きな人だっているのかもしれない」というそのとおり、友人同士である悠日と鈴之介が星砂のそれぞれの人格と関わりをもつという複雑な状況になってしまった。
それにしても、松岡茉優の演じ分けだ。2つの人格はまったく違うキャラクターではなく、考え方や言葉の端々に、もともと知っていた星砂の雰囲気が見てとれる。鈴之介が過去に受けた仕打ちが「シャツのシミみたいに残るんだよ?」と言うあたり、星砂だなあと思う。けれどもヘビ女の人格になった星砂は、声の湿度とツヤが増す。しっとりとやわらかな雰囲気をまとう。相当難しい設定を、彼女の演技力が支えている。
涙を拭うためのキッチンペーパー
6話では、キッチンで星砂の過去を聞いた鈴之介が、泣く星砂にすかさず手近なキッチンペーパーを渡すシーンがよかった。ハンカチでもない、やわらかなティッシュでもない、けれど目の前の涙をふくことのできるキッチンペーパー。鈴之介は器用ではないけれど、キッチンペーパーは最善ではないかもしれないけれど、でも鈴之介は、とっさに相手を救う手を差し伸べられる人だ。
そして「もしまた君がいなくなることがあったら、後は引き継ぎます。それで少しは怖くなくなりますか?」という言葉の心強さ!
それにしても、刑事に復職した鈴之介のもとに、どんどん事件が集まってくる。鈴之介はこの絡まりあった事件を解決することができるだろうか。
雪松署長(伊藤英明)は相変わらず怪しすぎる。鈴之介の隣人・森園(安田顕)とかつて中学生殺しで関わりがあったらしい雪松。森園と遺体発見現場で偶然会った彼は、その場で遺体が発見されたことは忘れていても、森園が将棋をするという些細なことは覚えていた。6話ラストでは邪魔になったのか、雪松は突然悠日に退職を促してくる。悠日が全力で殴ってもすぐ後ろの階段を落ちるどころかびくともしなかった体幹を持つ雪松は、なぜ4話ラストであんなにあっけなく階段落ちしたのだろう。
シリアスな展開の中で、鈴之介と小鳥琉夏(柄本佑)がりんちゃん、ことりんと呼び合う仲になっていたのには心癒された。せめてこの二人の関係だけでも、ずっとかわいくあたたかなものであり続けてほしい。
脚本: 坂元裕二
演出: 水田伸生、鈴木勇馬、塚本連平
出演: 林遣都、仲野太賀、松岡茉優、柄本佑 他
主題歌: SOIL&”PIMP”SESSIONS『初恋の悪魔』
🗣️
Writer 釣木文恵
ライター。名古屋出身。演劇、お笑いなどを中心にインタビューやレビューを執筆。
twitter
Edit: Yukiko Arai