アニメ評論家の藤津亮太さん監修のもと、戦中から現在に至るまでの巨匠たちをさまざまな角度から解説。珠玉の作品とともに、各人の作風や技術力を存分に味わおう。
日本アニメ史振り返りレジェンド監督 vol.2
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大スペクタクルと表現の実験
大友克洋
『銃声』(73)で漫画家としてキャリアをスタート。『AKIRA』(88)は原作者自ら監督と脚本を務めるという異例の体制で製作され世界的にも大ヒットした。街の破壊、スピード感のあるバイクの疾走など、緻密な絵柄で長編アニメでは大胆な描写を行い映像を盛り上げる。一方で実験的な短編にも関心が高く、原作・総監督を務めたオムニバス作『MEMORIES』(95)収録の『大砲の街』は、街に住む少年の1日を全編ワンカットで追う異色作だ。
監督の真髄を味わう2作品
『STEAMBOY』(04)
産業革命以降、その技術力が戦争に転用されることを阻止しようと奮闘する発明家と少年の物語。
『火要鎮』(13)
オムニバス『SHORT PEACE』収録。火消しの男との恋が実らず放火をした商家の娘。街に炎が広がる。
快楽センス抜群な映像美を確立
庵野秀明
学生時代から映画を自主制作し、アニメーターとして『風の谷のナウシカ』(84)に参加。『トップをねらえ!』(88)で初監督を務めたのち、『新世紀エヴァンゲリオン』(95)が一大ブームを巻き起こした。
一凄腕アニメーターならではの“動き”に対する鋭い感覚に加え、ビルやメカが破壊される間や大胆なテロップ使い、そして音楽の使い方など、観客の快楽のツボを見事に突く映像が特徴。『シン・エヴァンゲリオン劇場版:||』(21)では従来のアニメの制作方法を捨て、バーチャルカメラや俳優の芝居をデータとして記録するモーションキャプチャ技術を採用し、実写映画に近いアプローチで、“よりよいアングル”を徹底して追求した。ドラマ面では『エヴァンゲリオン』などで展開した登場人物の自意識を深く掘り下げていく内容が、さまざまな人の心に深く刺さった。
監督の真髄を味わう2作品
『シン・エヴァンゲリオン劇場版 :||』(21)
『序』(07)、『破』(09)、『Q』(12)に続く、『ヱヴァンゲリヲン新劇場版』シリーズ4部作の完結編。
『トップをねらえ!』(88)
全6話、OVAで発表された初の監督作品。宇宙怪獣に襲撃された未来の地球を舞台にロボットSFが描かれる。
虚構と現実を編み上げる
今 敏
漫画家として活動していたが、アニメ『老人Z』(91)を経て、優れたレイアウト(背景のベースになる線画)を描く腕前を見込まれ『機動警察パトレイバー 2 the Movie』に参加。初監督作『PERFECT BLUE』(97)や、ヴェネツィア国際映画祭コンペティション部門に出品された筒井康隆原作の『パプリカ』(06)などは海外からも高い評価を集め、ダーレン・アロノフスキー監督などリスペクトを公言している監督も多い。
現実と虚構が複雑に入り交じるところに作品の特徴があるが、エンターテインメントとしての完成度も高く、観客を置き去りにすることなく明確にストーリーが描かれる。自身の4作品の上映時間がいずれも90分前後とコンパクトであるにもかかわらず濃厚な体験として感じられるのは、彼が確かな演出力を持ったストーリーテラーだからである。次回作準備中の2010年に逝去した。
監督の真髄を味わう2作品
『東京ゴッドファーザーズ』(03)
東京を舞台にありえない偶然と奇跡が連鎖する。アカデミー賞長編アニメーション部門エントリー作品。
『千年女優』(01)
かつて一世を風靡した女優が、一人の男性を思い続けた数十年間を虚実を綯い交ぜにして語る。
スタイリッシュに時代を切り取る
幾原邦彦
1990年代に『美少女戦士セーラームーンR』のシリーズディレクターで監督デビュー。抑圧に立ち向かう少女ウテナの物語『少女革命ウテナ』(97)がファンの間で大きな話題に。その後『さらざんまい』(19)までTVシリーズを3作発表。現代社会のさまざまな問題を抽象化して“概念”として取り込み、作品と現実が切り結ぶ物語を描いた。様式化された画面を多用する演出や、小動物をコメディリリーフ的に登場させるなど独自のスタイルを確立。
監督の真髄を味わう2作品
『少女革命ウテナ』(97)
王子様に憧れ、男装して学園に入学したウテナ。そこで不思議な“掟”に巻き込まれ、闘いを挑むことになる。
『輪るピングドラム』(12)
両親を亡くした兄弟が体の弱い最愛の妹を死なせないため、“ピングドラム”を探し求める。現在劇場版も公開中。
小さな出発点から巨大なテーマに
細田 守
1991年東映動画に入社、『ゲゲゲの鬼太郎』(第4期)などの作品に携わり、劇場版『デジモンアドベンチャー』(99)で初監督。その後独立1作目『時をかける少女』(06)がヒットし、その才能が広く知られるようになる。
『サマーウォーズ』(09)、『おおかみこどもの雨と雪』(12)といった家族を基にした日常的な世界と、“ネットワーク世界の危機”や“おおかみこども”などの非日常的な要素をシームレスにつなぎ合わせた作品が多い。身のまわりにあるささやかなものを出発点に、普遍性のある大きなテーマへと迫っていく内容が、多くの人から支持を得ている。最新作『竜とそばかすの姫』(21)では、母の死を悲しむ主人公がバーチャル空間で“竜”に出会い、コンプレックスと闘いながら天性を覚醒させる様子を描いた。
監督の真髄を味わう2作品
『時をかける少女』(06)
筒井康隆原作。“タイムリープ”という能力を身につけた女子高生が、さまざまな悩みや恋と向き合い成長する。
『未来のミライ』(18)
4歳児「くんちゃん」という小さい子どもの視点から、家族や社会という大きな主題を描いた。
光と情緒の人
新海 誠
監督、脚本、演出、作画、美術、編集のほぼすべてを一人で行うスタイルで制作した『ほしのこえ』(02)でプロデビュー。その独創的な制作スタイルが、大きな話題を呼んだ。
その後、『秒速5センチメートル』(07)といった長編・中編作品をコンスタントに発表。光を美しく描く背景美術と、その映像に支えられた叙情が持ち味。彼が一躍時の人となった『君の名は。』(16)でも、東京各所や飛騨の山々の風景など実存する場所をリアルなタッチで描き、その魅力は十二分に発揮されていた。映画の設計図である絵コンテを、動画(ビデオコンテ)の形で完成させる先駆け的な存在で、その段階で台詞のタイミング、挿入歌の流し方などまで考えて作成されている。
監督の真髄を味わう2作品
『ほしのこえ』(02)
宇宙と地球とで離ればなれになった同級生の男女。2人の間に横たわる時間や空間のもどかしさを描く。
『言の葉の庭』(13)
梅雨の季節に新宿御苑で出会った、孤独な少年と女性をめぐる恋愛模様。繊細な色彩と台詞で紡がれる。