広瀬すず×永瀬廉による青春ラブストーリー、『夕暮れに、手をつなぐ』(TBS火曜よる10時〜)。ファッションへの興味をぐんぐんと増す浅葱空豆(広瀬すず)と、デビューが決まる海野音(永瀬廉)。そして近づく二人の距離……。ドラマを愛するライター釣木文恵と漫画家オカヤイヅミが4話を振り返ります(レビューはネタバレを含みます)。3話のレビューはこちら。
広瀬すず×永瀬廉『夕暮れに、手をつなぐ』4話。近づくほどに「遠く」なる予感…もう少し、いやできるだけ長く、二人を見ていたい
別れを予感させるナレーション
海野音(永瀬廉)のナレーションが不穏だ。
響子(夏木マリ)のドレスに興味が湧き、こっそり解体してしまった浅葱空豆(広瀬すず)は罰として銭湯の掃除を命じられる。連帯責任で音まで掃除をするはめに。冬のやわらかな光を受け、デッキブラシ片手に水をかけたりそれを防いだりしてはしゃぐ二人。その映像に重なるナレーションで、音は言う。
「冬の真ん中にいた僕たちは夏を夢見てた」
「僕たちはやがてやってくる夏も一緒にいると思ってた」
「少なくとも僕はそう思ってた」
今はこんなにも近くにいるのに、誕生日が音より7日早いと知った空豆が「音がこの世におらん7日、寂しかったと」とつぶやくくらいなのに、二人が生まれた季節である夏には、もう一緒にいないらしい。
もしも二人がドレスの前でキスをしていたら、あるいはこの縁側でキスしていたら。あのとき空豆があえて「今おいにキスしようとしたっちゃね?」とごまかしてみなければ、水鉄砲で水を浴びせたりしなければ。未来は違ったのだろうか。あるいは、噴水よりも前、イヤフォンを取り違えた日のことを空豆も覚えていることを、素直に話していたら……。夜、眠る音に空豆からしたキスは、二人の恋へとつながっていかないのだろうか。互いに恋心を自覚したような、なかったことにしちゃえるような。不確かな手ざわりのままの恋を持て余して、二人はいっしょの時間を過ごしている。
1枚のドレスをきっかけに変化する空豆
街角でドレスに心奪われた空豆は、そのショップの店員・ジェシー(馬場徹)の好意でドレスを試着をすることに。「このドレスを着てどこへ行くと?」と聞く空豆にジェシーは「あなたの行きたいところどこへでも」と答える。
「このドレスを着たら、どこへでも行ける気がしない?」
「ファッションは女性を自由にするの」
2話で「ものを作るっていうのは、人間がいっちばん遠ーくまで行ける手段なんだよ」と響子から伝えられた空豆。音はまさに音楽を通じて、遠くへ手を伸ばそうとしている。同じく2話で「ものを作る人は好かん」「遠くの人を楽しませる人は近くにいる人を悲しませるっとよ」と言っていた空豆。けれど、爽介(川上洋平)とドライブしたときに「ちょっと遠く」へ行くことを望んだように、彼女自身の中にも遠くへの願望があったのかもしれない。そしていま、1枚のドレスをきっかけに、空豆も遠くへと行こうとしている。
4話冒頭で「おいはけっこうむぞか(かわいい)けん」、役場(役場づとめだったとは!)を寿退社して働き口のない空豆は「音みたいに自分で稼ぎたか!」と空豆の祖母・たまえ(茅島成美)の送ってきた航空券を破る。それは空豆の自立の第一歩だった。やりたいことを探していた彼女のすぐ目の前に、やりたいことは転がっていた。かつて彼女が「好かん」と言ったとき思い浮かべていたのは、おそらく、母・塔子(松雪泰子)のことなのだろう。空豆が母のことをどこまで知っているかはわからないが、彼女はいま、母と同じ道を歩もうとしている。
「遠く」にあることの切なさ、貴重さ
いっぽう、爽介はニューヨークに戻るらしい。「もうちょっと頑張れば東京に帰ってこられる」(=母親である響子の近くにいられる)と話す爽介に響子は言う。
「いい年になったらね、親子なんて離れてたほうがいいのよ」
「遠くにいる爽介は大事に思える」
親子同士であれば、「遠い」ことは、決して悪いことばかりじゃないらしい。空豆と音、若い二人とは違う関係性だけれど、「遠くにいると大事に思える」というこの言葉は、音のナレーションが予感させる別れの悲しみを、少しだけやわらげてくれる。
ジェシーに教えてもらった商業施設で見てきたすてきな服を、絵に描いて再現してみせる空豆。そんな空豆への「自分で考えてみれば?」という提案は、音が自分で音楽を作っているからこその発想だ。音が音楽づくりをする横で空豆がデザインの勉強をする、デザイン画を描く。今のところは二人でいるからこそ、夢に近づいているのだけれど……。
連帯責任の風呂掃除を文句言わず引き受けたり、空豆に仕返しをするため溜めたバケツの水をちょうどいい温度にしたり。そういう音のやさしさが、いまは空豆をやさしく包んでいる。祖母のたまえに「少し時間をあげていただけませんか」と伝えたあと、響子は「家の中に若い人がいなくなるのは火が消えたようになるだろう」と思いやった。視聴者としても、若い二人のこの夢にむかうエネルギーを、恋をせずにいられないその気持ちが見られなくなるのはさみしい。もう少し、いやできるだけ長く、見ていたいと思う。
脚本:北川悦吏子
演出:金井紘、山内大典、淵上正人
出演:広瀬すず、永瀬廉(King & Prince)、夏木マリ、松本若菜 他
プロデュース:植田博樹、関川友理、橋本芙美、久松大地
主題歌:ヨルシカ『アルジャーノン』
エンディング曲:King & Prince『Life goes on』
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Writer 釣木文恵
ライター。名古屋出身。演劇、お笑いなどを中心にインタビューやレビューを執筆。
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