バカリズム脚本、安藤サクラ主演の『ブラッシュアップライフ』(日本テレビ日曜よる10時半〜)が3月12日、10話で最終回を迎えました。来世も人間に生まれ変われるよう人生を何度も繰り返し徳を積む……。令和の傑作の呼び声高い『ブラッシュアップライフ』レビュー後半戦、お笑いとドラマを愛するライター・釣木文恵、イラストレーター・まつもとりえこが振り返ります。 6話までを考察したレビュー前編はこちら。
余韻がとまらない『ブラッシュアップライフ』人生をかけて守った「親友とのおしゃべり」あーちん、なっち、みーぽん、まりりん!
「今世」を見つめる5周めの人生
主人公である近藤麻美(安藤サクラ)が、来世も人間として生まれられるように何度も人生をやり直すドラマ『ブラッシュアップライフ』が最終回を迎えた。
第6話で4周めの人生に突入した麻美。今度はこれまでの人生よりも真剣に勉強に取り組み、優等生として生きた結果、親友だった門倉夏希=なっち(夏帆)、米川美穂=みーぽん(木南晴夏)と距離ができてしまう。莫大な徳を積むべく研究医となった麻美はある日、宇野真里=まりりん(水川あさみ)が5回目の人生をやり直していることを知る。第1話でなっち、みーぽん、あーちんの3人が交わしていた雑談の中で、小学校時代、まりりんが優等生であることから持ち上がっていた「宇野真里タイムリープ説」は真実だった!
そして過去3周分の人生を見てきた視聴者が共有していた前提が覆される。ここまで3人組の大親友だと思っていた彼女たちは、じつはまりりんを含む4人組だった。まりりんは、みーぽんとなっちを巻き込むことになる飛行機事故を防ぐために人生を繰り返していたのだ。
しかし、この人生で「次は絶対に事故を防ぐ」と言っていたまりりんは失敗。やがて40代で死んだ麻美は、案内人(バカリズム)によって、来世は人間に生まれ変われると知らされる。100年以上をかけ、4回人生を繰り返して得た、念願の人間への切符。けれど、少し考えたあとで麻美はもう一度やり直しを選ぶ。人によって繰り返せる回数が違うが、麻美にとってはこれが最後。
「最後は人間に生まれるためでも、徳を積むためでもない人生
来世ではなく、今世をよりよいものにするため」
このドラマにハマっていた分、麻美の人生を見ながら常に「どうやったら徳が積めるんだろう?」と考えるクセがついてしまっていた。でも、ここで「そもそも人生ってそうだった!」と急に気付かされた。来世のためにとかはなくて、いまを生きるしかないんだった。何度も人生を繰り返すドラマに、人生の一回性を改めて教えてもらった。
ささやかなファインプレー
麻美は、文字通り人生をかけてなっちとみーぽんを救うために生きることになる。まりりんに至っては5回の人生をかけている。ものすごく意味ありげに登場する浅野忠信が完全にスカしで終わるという贅沢な面白さも挟みながら、麻美とまりりんは無事、飛行機事故を回避することに成功する。
最終話、どうしてもフライトを譲ってくれないキャプテン(神保悟志)に薬を盛るという犯罪行為を犯そうとしていた麻美たちを助けたのが、9周めの人生を生きていた河口(三浦透子)だったのには快哉を叫んだ。麻美の最初の人生で市役所の同僚だった河口は、ずっと同じ人生を8周していた。けれど前回の人生で麻美と話をしたことによって別の人生を選び、「170年の中で一番のスーパーファインプレー」を叩き出したのだ。
「不倫阻止”くらい”が親友と大勢の人生を救った」
3周目の人生でテレビ局で働いていた麻美が自分の人生をモチーフにしたドラマ企画を出したとき、「不倫阻止くらいじゃちょっと」「大勢の命を救うとか」とディレクターやプロデューサーに貶されたことがここで生きてきた。麻美は、何度も繰り返す人生の中で定期ミッションとして不倫を阻止してきた。それと同じちいさな行為が、こうしてたくさんの人を救うことになるなんて! あらゆることはつながっていて、人生で起きることに大きいも小さいもないのだ。
もうひとつ言うならば、4回の人生をかけてもまりりんが果たせなかった飛行機事故の阻止ができたのは、友達である麻美が同じ夢を追いかけたからだ。友達と一緒ならできることがきっとある。
辿り着いたのは4人で交わすおしゃべり
麻美とまりりんが百数十年、何度もの人生をかけて、獲得したのは「親友とのたわいないおしゃべり」だ。
フライトを無事終えた麻美とまりりんがなっち、みーぽんと合流して、それぞれ中2の頃に撮ったプリクラを見せ合ってぴったりと合わせた瞬間、二人が何度も繰り返してきたこれまでの人生すべてが報われたのじゃないだろうか。やってることはごくごくささやかなのに、しゃべってる内容は本当にどうでもいいようなことなのに、見ているだけで胸に大きな喜びが広がった。
9話冒頭、子ども時代の麻美が見る夢(このシーンは人生を繰り返すたびお決まりであった)では、カラオケで4人がしゃべっている。麻美は3人を助けるためにまた人生を繰り返したことを本人たちに話す。
「まだやり直せるんだったら3人助けたいじゃん」
「えーありがと」「ここ出すよ」
人生を救ってもらう対価がカラオケ代。そんな気の置けない関係のよさが、この最終回には描かれていた。ふつうだったらきっと、親友の命を救ったところで終わるだろう。けれどこのドラマでは、そのあと4人がもう行く場所が思いつかないくらい一緒に過ごしているようすがたっぷりと時間をかけて描かれていた。お互いをわかっているからこその低めのテンション、スピード感あるテンポの固有名詞が溢れる会話。それを交わす時間こそが、人生の最上の喜び。
1話で3人が話していた「超ハイテク老人ホーム」で「フリーザが乗ってるやつ」に乗って変わらずおしゃべりをしている老いた4人が映し出される最後。彼女たちが誰と恋愛したか、結婚したか、子供をもうけたかは一切描かれず、ただそれぞれの人生がありながらずっとおしゃべりをして過ごしたことだけがわかる。この美しいドラマが、日曜夜にあった3か月の幸運を噛み締める。
最終回は、老いた麻美の妹が電線にとまる4羽の鳩を眺めるところで終わる。最後までたわいないおしゃべりを続けた彼女たちの、次の人生を想像させるラストカット。そうして1話冒頭にも映っていたはずの4羽の鳩を確認するために最初から、このドラマをもう一度再生するループがはじまるのだ。
『ブラッシュアップライフ』公式サイト(日テレ)
Huluで全話&オリジナルコンテンツ配信中
脚本:バカリズム
演出:水野格、狩山俊輔
出演:安藤サクラ、夏帆、木南晴夏、水川あさみ他 チーフプロデューサー:三上絵里子
音楽:fox capture plan
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Writer 釣木文恵
ライター。名古屋出身。演劇、お笑いなどを中心にインタビューやレビューを執筆。
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Illustrator まつもとりえこ
イラストレーター。『朝日新聞telling,』『QJWeb』などでドラマ、バラエティなどテレビ番組のイラストレビューを執筆。趣味はお笑いライブに行くこと(年間100本ほど)。金沢市出身、東京在住。
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Edit: Yukiko Arai