広瀬すず×永瀬廉による青春ラブストーリー、『夕暮れに、手をつなぐ』(TBS火曜よる10時〜)。いっしょに住んでいた家を出た海野音(永瀬廉)と、傷ついた浅葱空豆(広瀬すず)の距離は離れてゆくばかり……。ドラマを愛するライター釣木文恵と漫画家オカヤイヅミが9話を振り返ります(レビューはネタバレを含みます)。8話のレビューはこちら。
広瀬すず×永瀬廉『夕暮れに、手をつなぐ』9話「忘れんで」「忘れられっかよ」一度離れた距離は縮められるのか
取り消された告白
8話で響子(夏木マリ)の家を出ていく海野音(永瀬廉)と見送る浅葱空豆(広瀬すず)が出会った日のやりとりをなぞって交わした「名前、なんと〜?」「音」「ええ名前やが〜」という会話。その消え入るような語尾が印象的だった。
9話で久しぶりに空豆と音が電話で話したときの「音?」「何?」「何でもなか」「何だよ」は、とてもやさしいのにどこかさみしく響いて、二人の距離を感じてしまった。
「そん頃には なんや気軽にしゃべれんようになってしまっとった。せつなか。さみしか。私たちは変わっていってしまう」
二人は決定的に離れてしまったのだろうか。空豆が自分に電話をかけつづけたことに後から気づいた音。それはアイデアを奪われた空豆が切実に音に助けを求めたものだったが、セイラ(田辺桃子)は「空豆ちゃん、彼氏ができたんだって」と嘘をつく。思いを寄せる空豆の目に自分が入っていないショックから、セイラがしかけたちょっとした意地悪。さらには「フラれた同士」として抱き合う音とセイラを目撃して、二人がつきあったのだと思う空豆。
どんなに忙しくても、同じ場所に帰ってくるのであればやがて解けたかもしれない誤解。けれど二人は、そのことを確認しあえないままでいる。そんななか、久しぶりに電話をしたことで、二人は改めて離れてしまった距離を思ったのかもしれない。
「空豆。俺、お前のことが好きだった。今も、これからも好きだと思う。」
「音。私は、音が好きだ。」
二人の思いは送信取り消しによって消えてしまった。そして相手が何を言いたかったかを確認することさえできない。
音と空豆のシーンでは「いま! 確認したらいいのに!」と願い、空豆と葉月(黒羽麻璃央)のシーンを見ては「そこがいい感じになっちゃうのはちょっと……!」と思う。こうやってヤキモキしたりハラハラしたりすることこそが、恋愛ドラマを見ることの醍醐味なのかもしれない。
「親である前にデザイナーよ」な塔子
尊敬する久遠(遠藤憲一)にデザインを丸ごと奪われてアンダーソニアを辞め、予定されていたコレクションもスポンサーが降りて白紙に。音のユニット、ビート・パー・ミニットの衣装の話も大物スタイリストに奪われてしまった。
「上は名前に弱い。自分にセンスがないだけに、能力がないだけに、見極めるセンスがないゆえに、今、たった今売れてるものにめっぽう弱い」
イソベマキ(松本若菜)の言葉が重い。どんなに才能があろうとも、名前が売れていなかったら、決定権をもつ“上”がその名前を知らなかったら、負けてしまう。ただ、そのスタイリングを見た空豆が「かっこよか」とつぶやいているのだから、その大物は名前だけではなく実力もあるのだろう。
すべてを失くしたかに見えた空豆が響子のアドバイスで頼ったのは世界的なデザイナーである母・塔子(松雪泰子)だ。感動の再会ではなかったことにちょっとショックを受けた空豆は「お金、貸してほしいと」と言い放つ(そういえばおばあちゃんのために実家に設置したエレベーター代はどうなったのだったっけ)。
「あんたの母親にはなれなかったけど あんたの夢叶えるお手伝いくらいさせてよ」
塔子は空豆をパリに呼び寄せ、塔子のブランドのセカンドラインを任せることに。涙ひとつないドライなやりとりではあったけど、「娘より仕事をとった」という空豆に反論しない塔子は親としてではなく、あくまでもデザイナーとして、若き才能に投資する。
サンクチュアリで抱き合う二人
「そしておいはそんとき思ったと」「こうして青春が終わっていくって」
戻れない道を進もうとする空豆。響子はみんなを集めた壮行会という名目で音を呼び、空豆と音を二人きりで過ごさせる。響子邸は二人にとってサンクチュアリだ。どんなに二人が変わっても、この場所だけは変わらない。
「忘れた。空豆のことは何も覚えてない」
まだ明るい中で、本当の美しさがよく見えない花火をしながら、そんなことを言う音。二人の会話は上すべり、本当に話したいことが交わせない。その距離にもどかしさを覚えた空豆は音に手を伸ばし、やがて抱き合う。
「忘れんで」「忘れられっかよ」
次回、最終回。二人の距離はどうなるのだろう。
脚本:北川悦吏子
演出:金井紘、山内大典、淵上正人
出演:広瀬すず、永瀬廉(King & Prince)、夏木マリ、松本若菜 他
プロデュース:植田博樹、関川友理、橋本芙美、久松大地
主題歌:ヨルシカ『アルジャーノン』
エンディング曲:King & Prince『Life goes on』
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Writer 釣木文恵
ライター。名古屋出身。演劇、お笑いなどを中心にインタビューやレビューを執筆。
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