ある朝、見慣れぬ荒廃した土地に飛ばされてしまった電車に乗り合わせた乗客たち。極限状態で何が起こるのか──。山田裕貴、赤楚衛二、上白石萌歌らが出演する『ペンディングトレインー8時23分、明日 君と』(TBS金曜夜10時〜)衝撃の1話を、ドラマを愛するライター釣木文恵と漫画家オカヤイヅミが振り返ります(レビューはネタバレを含みます)。
山田裕貴×赤楚衛二×上白石萌歌『ペンディングトレインー8時23分、明日 君と』1話の衝撃を振り返る
見知らぬ人たちと車両「ごと」ワープ
ペンディングは「未決、保留、先送り」といった意味で、ビジネスの場でよく使われる単語。『ペンディングトレイン』は保留や先送り”せざるを得ない”窮地に追い込まれた人々を描くドラマだ。
つくば駅から秋葉原駅を結ぶつくばエクスプレス。ある朝、その電車に乗り合わせた乗客たちが強い衝撃を感じた次の瞬間、1車両「ごと」どこかに移動してしまう。人もいない、建物もない。荒れた森、見渡す限り広がる砂漠と、命の危険のある崖に囲まれた場所。スマホは使えず、外部との連絡手段はまったくない。
日常から「丸ごと」どこかへと移ってしまう、という設定から思い出されるのはかつてドラマにもなった(2002年 フジテレビ)楳図かずおの『漂流教室』だ。あの作品では小学校ごと未来へと送られてしまっていた。小学校ならばクラスメイトや先生ら顔見知り同士だけれど、このドラマでは通勤時間の電車。お互いにたまたまそのとき同じ空間にいただけの間柄の人々が、いったいどのようにこの異常事態を生き抜くのかが描かれていく。
まずこの状況を受け入れ、ケガ人の救助や乗客名簿の作成などをすすめて全員がなるべく助かる道を探るのが消防士の白浜優斗(赤楚衛二)。かつて彼に勇気をもらった体育教師の畑野紗枝(上白石萌歌)も白浜と行動をともにする。最初は名前も年齢も明かさず、単独行動をとろうとするのは人気スタイリストの萱島直哉(山田裕貴)。1話の間に、3人が抱えている問題もチラチラと垣間見えてくる。
トラブルを起こしそうな面々
思えば電車って不思議な空間だ。1話冒頭で電車内の人々の振る舞いが描かれるシーンがあるが、それぞれSNSで誰かのようすを覗いていたり、にいる人たちとのつながりはほとんどない。
それが突然、ともに生き抜かなくてはならないメンバーとなってしまう。
自分さえ助かればいいと紗枝のかばんから食糧を盗む玲奈(古川琴音)、こんな状況にあっても駅員(村田秀亮)に責任を求める女社長(松雪泰子)。置かれた状況を「自由」と捉えて大胆に振る舞いはじめる田中(杉本哲太)と大人は信用できないと電車を出ていってしまう高校生カップル(日向亘、片岡凛)……。これからどれだけ続くかわからない極限状態のなかで、もう山ほどトラブルを起こしそうな面々が顔を揃えている。ムードメーカー的な役割の専門学校生・大地(藤原丈一郎)と理系大学院生・加藤(井之脇海)の二人は、元の世界へ戻る術を見つけてくれたりするだろうか。
なにしろ、人数が多い。あらすじではこの不思議な移動をしてしまった乗客乗員は68人とされている。最初にドアが開いた瞬間に出ていった人たちもいるが、優斗がつくった乗客名簿の時点でそれでもまだ46人。これだけの人数がいると、この先派閥が生まれ、敵対することになるのかもしれない。いっぽうで、現代(元の世界)のニュースによれば「100人以上」が消えたとされている。この人数の齟齬はどういうことだろう?
直哉、優斗、紗枝の関係は
優斗と紗枝は「やれるだけやってみよう」という言葉を唱えては、乗客たちを助けるべく率先して動き続ける。いっぽうの直哉は命の危険を優斗たちに助けられたこともあって電車に戻り、少しは心を開くかに見えた。が、それでもやはりあまりにもまっすぐ正義を貫こうとする優斗とはなかなか相容れないようだ。
紗枝はかつて自分を勇気づけてくれた優斗に淡い思いを寄せているらしい。一方で1話では盗みの疑いをかけてしまったお詫びにと持っていた靴(体育館履き?)を直哉に紗枝が渡す展開と、直哉が紗枝の靴紐を結んであげるシーンがあった。ほんのちょっとしたことだけれど、この状況ではそんな一つひとつの仕草がとても大きなことのように見えてくる。今後の3人の関係がどうなっていくのかも気になるところだ。
1話終盤で、彼らはどうやら30年後の未来へと飛ばされたらしいことがわかる。さらには貴重な水が誰かによって盗まれたことも。この先、サバイバル生活はどうなっていくのだろう。そして、1話冒頭で紗枝が抱いていた子どもはいったい誰なのだろう。
「ペンディング」って、あまりうれしい言葉ではない。進めていたできごとが一旦棚上げになってしまう。そしてそのうちのいくつかは、そのまま凍結してしまったりもする。この電車は再び動き出すだろうか。
金曜ドラマ『ペンディングトレイン―8時23分、明日 君と』(TBS)
脚本:金子ありさ
演出:田中健太、岡本伸吾、加藤尚樹、井村太一、濱野大輝
出演:山田裕貴、赤楚衛二、上白石萌歌、井之脇海、古川琴音、藤原丈一郎(なにわ男子)他
プロデュース:宮﨑真佐子、丸山いづみ
主題歌:Official髭男dism『TATTOO』
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Writer 釣木文恵
ライター。名古屋出身。演劇、お笑いなどを中心にインタビューやレビューを執筆。
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