ある朝、たまたま同じ電車に乗り合わせた乗客たちが車両ごとワープしてしまう『ペンディングトレインー8時23分、明日 君と』(TBS金曜夜10時〜。山田裕貴、赤楚衛二、上白石萌歌らが出演)。水も食糧もない中、50人余の人々はどうなるのか。ドラマを愛するライター釣木文恵と漫画家オカヤイヅミが、ますます謎の深まる2話を振り返ります(レビューはネタバレを含みます)。1話のレビューはコチラ。
考察『ペンディングトレイン』2話。信じる優斗(赤楚衛二)と疑う直哉(山田裕貴)の対立はどうなる?
水を隠していたのは……
「知らない人間を信用できるか」が描かれた2話だった。
互いに見ず知らずの人たちが、外界から閉ざされた場所にいきなり連れて来られて2日。水もなく、ただ電車の座席に座っていることしかできない。
そんな中で、自販機の補充に来ていた業者が現れて「水が奪われた」という。疑心暗鬼に陥る人々。結局、田中(杉本哲太)が水を隠していたことが発覚。強気に出た田中による恐怖政治が敷かれる……と思いきや、萱島直哉(山田裕貴)がすぐに反撃。その場で田中を追放するか、それともここにとめおくかの多数決が採られることになる。
1話から明確に対立する構造となっている直哉と白浜優斗(赤楚衛二)。乱暴なやり方であっても危険を排除しようとする直哉に対し、優斗はどこまでも理想を追い求める。
「どんな時でも理性と良心を持つ。人を信頼する。そうすると必ず道が見えてくる」
そう話す優斗に直哉は
「そんなきれいごとでうっとりするの、この畑野さんぐらいだと思いますよ」
と紗枝(上白石萌歌)を引き合いに出して皮肉る。その場にいた大学院生の加藤(井之脇海)の
「きっと白浜さんはいい家庭のご子息なんでしょうね」
という言葉も、少しの呆れを含んでいるように思える。
直哉の心を溶かす紗枝の振る舞い
田中に関する多数決はちょうど同数に。そして最後の紗枝の1票は優斗を支持するもので、結果乗客たちは田中を許し、このまま一緒にいることとなる。
田中を追放することを選ばなかった乗客たちの中には、直哉のように積極的に信じる人もいただろう。あるいはそれは、自分の決断で人を見殺しにするのが心地悪いという消極的な理由もあったかもしれない。そしてこの状況下で「人を信じるかどうか」の判断をペンディングした人も、多かったのではないだろうか。
多数決の日の夜、直哉と話した紗枝は
「だって萱島さんはどういう人かわからない。誰のことも信じてないから、従うのは怖いですよ」
と語る。その言葉にショックを受けた様子の直哉。しかし翌日、自分の嘘話を真に受けて、居もしない彼女に花を手向けてくれた紗枝に、直哉は二人きりで生きてきた弟が非行に走って警察に捕まったこと、電車に乗った日がその弟の出所日であったという事実を素直に語る。
「あなたがどういう人かわかった気がします。優しい人です」と認識を改める紗枝。
紗枝の思いを受けて、ほんの少し直哉の心が開いた。この極限状態で、直哉は人を信じる心を取り戻すのかもしれない。
スマホが支えていた人々の気持ち
乗客たちは貴重なモバイルバッテリーを奪い合ったり、家族に呼びかける動画をスマホに残したり、無理とはわかりながらもメッセージを送ったりを試みる。スマホの残りわずかなバッテリー残量を惜しみ、ネットがつながれば、と口々に願う彼ら。
「そしたらここにいる大人たちも言い争ったりしなくてすむのにな、ちゃんと距離とれるから」
とつぶやく高校生カップルの男子・江口(日向亘)。スマホの向こうに自分の居場所があることが、現代を生きる人々を支えているのだなとひしひしと感じるシーンだった。
事態は揺るぎなく深刻なまま。だが今のところ、乗客たちは優斗の呼びかけに従い、一定の秩序を保っているように見える。希望を捨てていないからか、絶望のなかにも僅かな余裕があるからなのか。
きっと優斗がいま乗客たちに支持されているのは、「自分を信じてくれているから」だ。このまま優斗は強くいつづけられるのか。乗客たちは救われるのか。現代から神隠しのように消えている車両の、もう一両とその乗客はいったいどこにいるのか。出口はまだ全く見えない。
金曜ドラマ『ペンディングトレイン―8時23分、明日 君と』(TBS)
脚本:金子ありさ
演出:田中健太、岡本伸吾、加藤尚樹、井村太一、濱野大輝
出演:山田裕貴、赤楚衛二、上白石萌歌、井之脇海、古川琴音、藤原丈一郎(なにわ男子)他
プロデュース:宮﨑真佐子、丸山いづみ
主題歌:Official髭男dism『TATTOO』
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Writer 釣木文恵
ライター。名古屋出身。演劇、お笑いなどを中心にインタビューやレビューを執筆。
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