マーク・レッキーが1999年に発表した『フィオルッチ メイド ミー ハードコア』は、70年代から90年代のUKアンダーグラウンドシーンの映像をコラージュした作品だ。ダンスクラブの記録にとどまらず、音楽という共有体験を通して文化が醸成されるさまを追った姿勢が評価され、作家の名を世に広めることとなった。
1964年生まれのレッキーは労働者階級出身を自認し、常に、多くの人がときに軽薄に共有し消費する「カルチャー」に興味を注いできた。音楽やダンスをワーカークラスの自己表現手段と捉え、『フィオルッチ メイド ミー ハードコア』においては、イギリス特有の階層化社会への鋭い眼差しも潜んでいる。
2003年には映像作品『インダストリアル ライト アンド マジック』にて、英国テート美術館が主催するターナー賞を受賞。大衆文化とテクノロジーを掛け合わせながら、精力的に発信を続けている。
彼のアプローチはストリートファッションとも親和性が高く、2023年には〈シュプリーム〉が『フィオルッチ メイド ミー ハードコア』のシーン写真を落とし込んだコレクションを発表。情報技術の革新が進む中、「現代性」を表現する作家として注目され続けている。
2024年2月22日(木)から「エスパス ルイ・ヴィトン東京」で開催される展覧会では、「フォンダシオン ルイ・ヴィトン」が所蔵する作品を公開。『フィオルッチ メイド ミー ハードコア』はリマスター版が展示され、作家自身が制作したサウンドシステムが空間を音楽で包む。
会場には、2013年発表の『フェリックス ザ キャット』も登場。これは、人間社会でさまざまなイメージを持つ「猫」を題材にした立体作品だ。アニメのキャラクターを取り上げることで、電子化された偶像を共有する近現代の大衆文化の姿に迫っている。