森達也監督15年ぶりのドキュメンタリー映画
佐村河内守“主演”の『FAKE』を語り尽くす。
森達也監督が15年ぶりに撮った映画『FAKE』(現在公開中)は、2014年に“ゴーストライター騒動”で世間の注目を浴びた佐村河内守氏を追ったドキュメンタリー。ドキュメンタリー映画が大好きなミュージシャンの岡村ちゃんこと岡村靖幸氏、ドキュメンタリーを方法論に映画やテレビで活躍する松江哲明監督が、『FAKE』をじっくり語り合いました。
(*少々内容に踏み込んでいます。観る前に読むか、観てから読むかはアナタ次第!)
©2016「Fake」製作委員会
いちばん最初に予告編を観たときから「なんだこれは!」と驚愕。
松江 僕はこの映画を制作過程から合わせると3回観てるんです。
岡村 松江さんは森達也さんと親しくて、作ってる途中も観ているんですよね。
松江 森さんが佐村河内守さんを撮っているというのは、最初はニュースで知ったんです。そのあと、去年(2015年)の「山形国際ドキュメンタリー映画祭」で、森さんが出演して企画した『ドキュメンタリーは嘘をつく』(06年放送/テレビ東京)の上映会とトークショーがあるというので、僕も参加して。当時、『ドキュメンタリーは嘘をつく』の編集に僕も関わっていたんです。で、そのトークショーで森さんが、「いま作ってる新作の予告編を流します」と言って流したのが『FAKE』だったんです。いちばん最初の予告編なので、いまの予告編とは違うバージョンでしたけれど。
岡村 そのときの印象はどうでしたか?
松江 何も知らないまま観たので、すごく森さんらしい映画になりそうだな、という予感はありました。その段階から、「ベランダでタバコを吸いませんか?」って佐村河内さんが森さんを誘うシーンもあったし、猫も登場してたし(笑)。作品の核となるシーンは結構入ってました。それで、その年末に、3時間半くらいあるバージョンを観させてもらったんです。「いま編集に悩んでるから観てくれ」って森さんに言われて映像が送られてきて。ドキュメンタリーって、長いとつまらなくなるものなんです。ただ、森さんの映像は、めちゃめちゃ面白かった。3時間半、イッキに観ちゃったんです。
岡村 へえ〜!
松江 その後、もう一度試写をやったんですね。そのときは2時間前後のバージョンだったかな。完成版は1時間48分(109分)なので、それに近いカタチになっていました。それは、ドキュメンタリーの監督をたくさん集めて開いた内々の試写会で、森さんが、「作り手の意見を聞きたい」ということでみんなを集めたんです。とはいっても、話なんて聞かないんですよ、森さんは(笑)。でも、久しぶりの映画だから、みんなの反応を知りたかっただろうし、感想を聞くのが楽しかったんじゃないかと思います。最近の森さんは、本を書くことが多かったじゃないですか。本を書くときは誰も立ち会わないけれど、ドキュメンタリーは制作に立ち会ったり意見を交換しあったりするのはよくあることなんです。
岡村 じゃあ、映画ができあがるまでの段階を追って観ていた松江さんとしては、その面白さは終始失われていなかったと。
松江 まったく変わってないですね。いちばん最初に予告編を観たとき、佐村河内さんの自宅マンションのエレベーターに森さんが乗り込む姿が鏡に映る映像から始まったんですが、もう、「なんなんだこれは!」っていう(笑)。「森さんらしい画」は、いちばん最初の予告編からすでに入っていましたからね。
©2016「Fake」製作委員会
「佐村河内さんの悲しみを撮りたい」と森監督は言った。
岡村 撮影期間はどのくらいあったんでしょうかね。
松江 たぶん、1年ちょっとくらいじゃないかと思います。佐村河内さんのマンションへ行った回数だけカメラを回して、それが映画になっているんじゃないかと。
岡村 撮り始めたのは、おそらく2014年の秋くらいからでしょうかね?
松江 でしょうね。(注:撮影期間は14年9月から16年1月まで)
岡村 映画の最初のほうで、佐村河内さんが、テレビの年末特番かなにかの、自分がパロディにされ、しかも、新垣隆さんが出てくるバラエティを観る、というシーンがあるじゃないですか。それを観た佐村河内さんは一体なにを思う、というシーン。ということは、あの騒動のあと、わりと早い時期に佐村河内さんを撮り始めたんだなと思ったんです。そもそも、“ゴーストライター騒動”が表沙汰になったのはいつでしたっけ?
松江 たぶん、2月ぐらいじゃないですか。春先に騒がれていたのは覚えてます。
岡村 じゃあ、その年の後半から撮影を開始したということは、森さんは、長い間交渉を重ねた末に、ということではないですよね。
松江 実際、そんなに交渉はしてないそうなんです。森さんから聞いたんですが、最初は書籍の企画だったそうなんです。
岡村 ああ、そうなんですね。
松江 でも森さんは、早い段階から「映像でやりたい」と言ったそうなんです。
岡村 その、年末特番の放送前、テレビ局の人たちが佐村河内さんのマンションにやってきて、「佐村河内さんを悪いように扱いません。ぜひ出てください」と交渉するシーンがあったでしょ。でも、佐村河内さんは、「出ません」と断る。自分がいじられ、悪く扱われると思ったからだと思うんです。結果、その通りになるわけですが、僕は、そのような番組を、佐村河内夫妻と森さんが一緒に観ているというのは、とてもシュールな光景だなと思ったんです。というのは、つまり、バラエティに出ることと、森さんのドキュメンタリーに出ることは、極端に言ってしまえば、同じことじゃないかと思うんです。あからさまじゃないにしても。
松江 ある意味、そうですよね。
岡村 でも、森さんはOKだった。なぜだったんだろうかと。ドキュメンタリーを撮ります、となったとき、佐村河内さんは「出ません」と断ることもできたし、そもそも佐村河内さんの危機感や不安感を取り除かないとあのマンションに入ることすらできなかった。どうして森さんは大丈夫だったのかなって。森さんにしても、「全面的に佐村河内さんを応援します」じゃなく、「真実を映します」というスタンスですよね。しかも森さんは、テレビ局の出演交渉や、海外ジャーナリストの取材にまで同席を許される。というか、森さんがそばにいるから、佐村河内さんは外部の人に会っているように見えるんです。森さんが佐村河内さんの信頼を勝ち取った、その理由はなんだったと思いますか?