完璧カップルだった勝男(竹内涼真)と鮎美(夏帆)。彼らが別れたところから自分たちを省み、変化してゆく姿を描いていく。10月7日にスタートした火曜ドラマ『じゃあ、あんたが作ってみろよ』(TBS毎週火曜よる10時〜)5話までを、ドラマを愛するライター・青島せとかと、イラストレーターのオカヤイヅミが振り返ります。
変わろうとする勝男(竹内涼真)の輝き『じゃあ、あんたが作ってみろよ』を振り返る
鮎美(夏帆)の「そうそう変わりきれない」感じに心当たりがある人も多いのでは?

考察『じゃあ、あんたが作ってみろよ』前編
変わろうとする勝男に
心打たれる
谷口菜津子のマンガを原作としたドラマ『じゃあ、あんたが作ってみろよ』。大学時代からつきあっていた“完璧カップル”、海老原勝男(竹内涼真)と山岸鮎美(夏帆)。バリバリ仕事をする勝男のために毎日料理をし、部屋をきれいに保つ鮎美。満を持してプロポーズした勝男が玉砕するところから物語は始まる。全く心当たりのない勝男に鮎美が残した言葉は「勝男さんにはわからないし、わかってほしいとも、もう思わないかな」。
このドラマが面白いのは、そこからの二人の「変化」に焦点が当てられているところだ。
別れた勢いで久しぶりに参加した合コンで、「筑前煮が作れる人」を理想のタイプとする勝男から、女性たちは苦笑いで去っていく。鮎美とつきあっていた頃の彼は、女が料理を作って家で待っていることを当然と考え、「強いて言うなら、全体的におかずが茶色すぎるかな」とダメ出しまでする前時代的な考えの持ち主だった。そんな自分を疑いもしなかった。会社でも後輩の白崎(前原瑞樹)や南川(杏花)が昼にパンを食べているだけで信じられないという顔をし、料理担当という白崎には「お前の彼女料理作ってくれないんだ」だの、料理をしない南川に対して「家で料理作って愛する人の帰りを待つってのは女の幸せ」だの平気で言う。だから後輩たちも勝男のことを「海老カツ」と呼んで敬遠気味だ。
そんな彼が、筑前煮を「作ったことあります?」「作ったら、気持ちわかるんじゃないですか」と南川に言われ、実際に作ってみたことから変わり始める。夕飯のおかず一つ作るのがどれだけたいへんか、時間も手間もかかるものなのか。知ることで、自分が思い至っていなかった部分があることに気づく。それからというもの、勝男は一つひとつ、「わからない」ことに歩み寄り、決めつけていた自分を反省し、素直に間違いを認めて相手に謝る。“完璧”で強気だった勝男は、鮎美の気持ちを考えていなかった自分を省みてよく泣くようになる。
「彼女が本当に何をしたかったかって言うのは、ちゃんと相手に聞かないとわからない」
「(料理を)作った人の気持ちを想像しないで」「毎日鮎美の心踏みにじってたんだ」
その姿勢が、周りも変えていく。
白崎が言う。「海老原さんみたいな人って、一生変わらないんだろうなあと思っていたんだけどさ、それって俺の決めつけだったかも」。「勝男のような人は変わるわけがない」という考えさえも固定観念であり、決めつけのひとつなのだ。
度々挟まれる実家の描写によって、勝男のこの態度は、育った環境による型にはまった生き方の「再生産」であることがわかる。父親は亭主関白の教科書のような振る舞いで、5話で上京する勝男の兄・鷹広(塚本高史)は、鮎美と別れる前の勝男よろしく、料理にうるさく、性別のロールモデルに囚われている。
変わることを恐れない勝男は、鮎美をはじめ周囲の協力を得て自分で作ったとり天を鷹広に渡す。何事かを悩んでいそうな、でもおそらくは男らしさに絡め取られて誰にも相談できずにいる兄に「誰かに話してよ」「俺じゃなくてもいい」と伝え、泣く。その姿が、鷹広をも変えていく。
自分の非を認めることも、自分とは違う価値観を認めることも、難しい。それを知ったとしても、変わることはもっと難しい。だからこそ、変わろうとする勝男の姿勢に、周り同様、観ている私たちもこんなにも心動かされる。
Edit_Yukiko Arai