制作者不詳(クイクロ)《サル》ⓒBEĨcollection / by Rafael Costa
制作者不詳(クイクロ)《サル》ⓒBEĨcollection / by Rafael Costa
「ブラジル先住民の椅子――野生動物と想像力」展。その名のとおり、ブラジルの先住民が作ってきた、そして今も作られている椅子の数々が展示されている。
ジャガー、鳥、猿、アリクイ、亀、ワニ、エイ……。先住民が暮らす場所で崇められてきた、あるいはおなじみの動物たちが象られている。それらは本物の動物そっくりというのではなく、極端にデフォルメされていて、可愛らしいキャラクターのようだ。
丸太から彫り込んで作るという椅子は、どれもお風呂の腰掛くらいの低い高さで素朴なフォルム、美しい木目にタトゥーのような模様が描き込まれている。スタイルは共通しているが、この中に今現在作られているものが混じっているというのでびっくり。
会場構成をデザインしたのは著名建築家の伊東豊雄さん。影がほんのりブルーに染まる不思議なアクリルテーブルによって、素朴な椅子たちもいっそう際立つ。
展示は大きく3つのグループに分けられている。ひとつは、伝統的に使われてきた実用的な椅子。といっても、これらに座ることができるのは男性、なかでもシャーマンや長老、戦士など高位の人々が座るものだ。実用性を考えられているので、かたちもシンプルだし、座面もきちんとあって腰掛らしく見える。
次は、宗教的なものとして使われてきた椅子だ。儀式では、シャーマンがこれらに腰かけてダンスしたり歌ったりしてトランス状態に入っていく。となると、椅子の「機能」よりは「意味」の方が大事になってくる。モチーフに鳥が多いのは、この地域において鳥は飛翔し、異界や死者の世界へも飛んでいける重要な動物だからだし、村の権力者は森の王者であるジャガーの力を自分にこめて、その地位を高めようとした。
庭園美術館のアールデコの室内にもなじんでいる。
最後に、現代のものが集められている。これらは村で使われるのではなく、作品として売るために作られたものだ。動物のかたちは伝統的なものと似ているけれど、よく見ると背中が丸い。椅子としてはむしろ座りにくいはずだし、より彫刻的な見た目になっている。
手前はカピパラ。ずんぐりむっくりな可愛さは本物さながら。
背中が丸くなった理由を、人類学者の中沢新一さんは「この動物の背中の丸みの回復は、もうその背中に座る呪術師も首長もいないということ、インディオの社会から土着的主権がなくなってしまっていることに対応している。」と書いている。それらには村の習俗も宗教的な意味合いも込められていない。と書くと、残念な感じにも聞こえてしまうが、そうではない。彼らが引き継いできた技術はもちろんのこと、動物を観察する眼、そしてそれを彼らなりのかたちにする力はますます洗練度を増している。
今の作り手たちは「ジャガーを彫るとき、ぼくらはその日に見たジャガーの表情を思い出すんです。」「俺たちは、腹が減っているときのジャガーの顔と、獲物を食ったあとの顔との違いが判るんだ。」と語る。この言葉は、ものすごく単純なかたちをした動物の椅子に、卓越した観察眼や動物との距離の近さが映し出されていることを教えてくれる。
現代に作られたジャガーの椅子 ウルフ作(メイナク)《ジャガー》ⓒBEĨcollection / by Rafael Costa
スタイルや用途を変えながらも、彼らの文化はしっかりと受け継がれ、時代に合わせて変わり続ける。この動物たちに感じる力強さは、そうやって現代をサヴァイヴしていく先住民たちの逞しさなのだろう。
ちなみに、この時期の庭園美術館はとっても気持ちが良い。夏の名残はありつつも、暑さはひと段落。ピクニック気分で出かけてみるのもおすすめだ。
ブラジル先住民の椅子――野生動物と想像力
会期:2018年6月30日(土)〜9月17日(月・祝)
会場:東京都庭園美術館 東京都港区白金台5-21-9
休館日:9月12日(水)
開館時間:10:00–18:00 (入館は17:30まで)
*8月31日までの毎週金曜は21時まで開館(入館は20時30分まで)
一般=1,200円/大学生(専修・各種門学校含む)=960円/中・高校生=600円/65歳以上=600円