ビルの2階にあるE&J カシアスジムには、気持ちの良い光が入ってくる。
リングサイドのテレビでは夕方のニュースが流れていた。
女性アナウンサーの声はちゃんと聞こえるのに、なぜか内容が入ってこない。
無造作に積まれたボクシンググローブの山に”Ricky”の文字が刻まれた赤いグローブを見つけた。
写真家 松本昇大が写す、ボクシング選手 内藤律樹
「殴りっこしに行くために、バンバン練習して好きな食べ物も制限して遊びも行かない。一人で孤独になって毎日練習だけになって。ボクサーの特権じゃないですけど、たぶん一番そこがボクシングっぽい気がするんですよね」
内藤律樹は、優しい口調で丁寧に話してくれる。
「これから出てくる選手が海外に行けるシステムを作りたいっていうのが、自分の中ですごくあって。そのシステムを作るには、やっぱまずは自分が世界チャンピオンになって海外の人達に名前が売れて、知ってもらえないと絶対に作れない。ボクシングを仕事にしたいっていう人達に夢を与えられるようにしたいっていうのはありますね」
彼の言葉には変化を求める意志があり、応援したくなる。
あまりにまっすぐこちらを見て話してくれるので、思わずこちらが視線を外してしまった。
リングから下り、タオルで汗を拭いながら外に出る彼を追いかけた。
”Tomorrow is another day”
黄色のTシャツに着替えた彼の胸にはそう書かれていた。
「暑いっすね」
こちらに気が付き、はにかんだ表情で声をかけてくれた。
🗣️
選手<br /> 内藤律樹<br />
第45代日本スーパーフェザー級王者。第40代OPBF東洋太平洋スーパーライト級王者。父は、沢木耕太郎のノンフィクション『一瞬の夏』の主人公で伝説のボクサー、カシアス内藤。
🗣️
写真・文<br /> 松本昇大
写真家。雑誌や広告などで活躍する一方、スポーツを題材に作品を撮り続け、写真作家としても活動の場を広げている。shotamatsumoto.co