愛すべきヒロインを描くドラマは脚本家と女優との名タッグによって生まれてきた。ドラマ好きライター・おぐらりゅうじが宮藤官九郎×小泉今日子のタッグで生まれた名作ドラマ『マンハッタンラブストーリー』について語ります!
ドラマ好きライターが語る、宮藤官九郎×小泉今日子『マンハッタンラブストーリー』に詰まった「人間」の真の魅力
2003年に放送されたドラマ『マンハッタンラブストーリー』は、これまでの『池袋ウエストゲートパーク』や『木更津キャッツアイ』によって、若者視点と男子ノリのイメージが強かった宮藤官九郎が、コミカルな要素は色濃く残しながらも、大人の恋愛ドラマに挑んだ作品である。主演は松岡昌宏だが、ヒロイン的な役割と準主演を兼ねるのが小泉今日子だ。役どころは、当時の小泉本人の実年齢よりひとつ若い36歳のタクシードライバー。同僚の男性たちと同化するような青いスーツの典型的な運転手の制服姿で、タバコをふかし、言葉遣いも荒っぽい。しかし、このキャラクターが恋をした途端、きらきらメイクに頭のてっぺんポニーテール&赤いハートのヘアアクセ姿に豹変。仕事を放り投げ「好きな人に会いたくなっちゃったんだもん……テヘ!」とはにかむ。恋に落ちる前までの姐御肌キャラが丁寧なフリになり、以降はどんなにダサい格好をしようがイタいセリフを言おうが、安心して小泉今日子のコメディエンヌっぷりを堪能できる、という設計だ。
宮藤官九郎脚本の大きな魅力は、登場人物たちのリアリティである。行動や生活感、日常会話などの細部に至るまで、人間のリアリティをわきまえているからこそ、リアルから逸脱したことで起きるギャップの笑いも書くことができる。小泉今日子には「理想の(年齢の重ね方をしている)女性」というイメージがあるが、本作では「おまえ今いくつだよ」というような会話で、36歳という年齢もネタにする。それは決してその年齢を揶揄しているのではなく、女優が求められがちな「(実年齢に)見えな〜い」よりも、女性タクシードライバーにとっては「おまえ今いくつだよ」のほうがリアルだからだ。
そんな人間のダサくてイタいところを宮藤がコメディに変換し、その役を〝なんてったってアイドル〟の小泉今日子が演じていることは、後の『あまちゃん』における名ゼリフ「ダサいくらいなんだよ、我慢しろよ!」にもつながっていく。
【DRAMA DATA】
脚本:宮藤官九郎/DVD-BOX ¥22,800、Blu-ray BOX ¥26,400/発売元:TBS 販売元:NBCユニバーサル・エンターテイメント ©2011 Tokyo Broadcasting System, inc. All Rights Reserved
“中央テレビ”近くの喫茶店「マンハッタン」を舞台に珈琲を愛する店長(松岡昌宏)が、常連客の片思いの連鎖に巻き込まれていく。2003年TBS系放送。
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おぐらりゅうじ
1980年、埼玉県生まれ。フリー編集/構成作家など。TVBros.編集部員。
Photo: Tanoue Koichi Text: Ryuji Ogura Edit: Tomoko Ogawa