劇団「範宙遊泳」の作・演出を手がける山本卓卓は、世の中で設定された境界をじっと見つめ、その線を曖昧にさせる。現実とフィクション、感覚と言語、男と女、個人と集団、血縁と無縁、生と死、愛と憎しみ。対極として捉えられてきたあらゆる境界線を行き来しながら彼が表現するのは、多面的で重層的で混沌とした人間の揺らぎ。もっとも人間的なはずなのに、最近では、「面白くない」とか「わかりにくい」とか片付けられがちな複雑な感情だ。
範宙遊泳は、2007年、桜美林大学在学中に山本卓卓が旗揚げした劇団。1987年生まれの山本は、文字や図をプロジェクターでスクリーンに投影し、インターネットとは切っても切れない関係の現代社会に浮かぶ問いをテーマに戯曲を生み続けている。昨年11月に披露した新作公演『#禁じられたた遊び』では、日本以外の国籍を持つ人、日本語以外の言語を話せる人、トランスジェンダーの女性などを役者として起用。多言語が飛び交う架空の街を舞台に、境界の間にまたがっている家族と周辺の人たちの声を、マジョリティと戦わせることも区別することもなく、並列して届ける内容になっていた。
そんな範宙遊泳の最新公演は、14年春に東京芸術劇場シアターイーストにて上映され、第59回岸田國士戯曲賞最終候補作にノミネートされた『うまれてないからまだしねない』の再演。地球に少しずつ起こり始める異変と、環境の変化に翻弄される人間たちの姿を(仮)として描く本作。新キャストに、銀粉蝶、FAIFAIの山崎皓司、贅沢貧乏の山田由梨などを迎える。このリクリエイションで観る者にどんな思考の旅をさせてくれるのか、今から楽しみである。