2018年にブランドをスタートさせたばかりにも関わらず、テーラードを筆頭に端正でシックなコレクションを発表し、すでに多くのファンを獲得しているNY発のブランド、ピーター ドゥ。デザイナーのピーター・ドゥはフィービー・ファイロが手がけていた頃のセリーヌに在籍経験があり、そのものづくりには「フィービーイズム」も感じられる。昨年末アデライデで開催されたポップアップのために初来日したピーターに話を聞いた。
設立2年でフォロワー16万人〈ピーター ドゥ〉にインタビュー。気鋭デザイナーが描く現代の女性像とは
――ブランドをスタートした経緯を教えてください。
ニューヨーク州立ファッション工科大学(F.I.T.)在学中にタンブラーをブログとして使っていました。パターンメイキングなど、ものづくりのプロセスについて投稿していたら、ネットショップのモーダ・オペランディで働いていた現セールスディレクターがメールをくれたのが始まりです。PR担当ともタンブラーを通して知り合いました。当時は5万人くらいフォロワーがいたでしょうか。
――5万人も!なぜそんなに人気があったのだと思いますか?
今何をしているかを投稿する人は多かったのですが、僕のように世界観を表現しようとしていたことが珍しかったからかもしれません。以後インスタグラムに移行して、今も基本的にストーリーでスタジオや工場の風景や買い物、スタッフとの食事など、普段の様子をアップしています。それらピーター ドゥの構成要素をシェアして、ブランドの世界観に共感してもらいたいんです。舞台裏を公開することは、コピーされることを恐れて抵抗があるブランドも多いとは思いますが。
――今回の取材では「顔を写さないで」という希望がありましたが、インスタにも顔を出していませんね。
多くのことをシェアしているので顔ぐらいは出さないでおこうかな、と…(笑)。右手の中指から肩まで続く直線のタトゥーで僕だと気づかれることはありますが、スナップされる可能性があるようなパーティやイベントには出席しないことにしているんです。展示会の時などはスタッフ皆同じ白いコートを着ているので誰が誰だかわからなくなります(笑)。
――マルタン・マルジェラを彷彿とさせますが、今顔出しNGを貫くのはなかなか難しそう…今回は2020年春夏のインスピレーション源となったアーティスト、マーク・ロスコを思わせる布を使ったインスタレーションも行ないました。シーズンのテーマを教えてください。
ブランドにとって新しい方向性なのですが、マーク・ロスコ、エルズワース・ケリー、クリフォード・スティルのアートに着想を得て、色を多用したことですね。ニューヨーカーに白、黒、グレーの服装が多いことが気になって色に関心を持ちました。僕はいつも「問題解決」からものづくりをスタートさせるんです。
――シグネチャーのテーラードも美しいですね。
いつもメンズウェアからヒントを得ているんです。メンズに比べてウィメンズにはブランドが多すぎるし、トレンドもころころ変わる。女性は買い物をし過ぎなのではないでしょうか。いいものを吟味して長く着るといったメンズの概念を持ち込みたいと考えています。
――キャンペーンヴィジュアルには引き続き30代のモデル、マギー・マウラーを起用していています。
マギーは僕がセリーヌに在籍していた時にフィッティングモデルをしていて、それからの付き合いです。会社の中で彼女と僕だけがアメリカ人だったということもあって仲良くなりました。ブランド設立以降もとても協力してくれて…スタッフ同様、ファミリーのような存在です。若いモデルよりは彼女くらい落ち着いている大人の女性の方がブランドには合っていると思います。
――彼女は本当に似合っていて、ブランドの女性像を体現していると言えそうですね。ところで初来日だそうですが、日本の印象はいかがですか?
混み具合やせわしなさはNYと似ていますが、NYに比べて静かです。数日滞在しただけで僕もいつのまにか話し声が小さくなっていました(笑)。あとは、制服や食べ物など、全てが「カワイイ」(笑)。そして、皆親切ですよね。タクシーに乗ったら英語がわからない運転手さんだったのですが、行き先を何とか理解しようと必死になってくれました。NYでは冷たくあしらわれがちで、そんなことはあり得ません。ピーター ドゥも親切で、広い心を持ったブランドでありたいです。
――買い物はされましたか?ちなみにいつもどんなブランドを着ているのでしょうか。
まだ買い物はできていないんです。僕は基本的にセリーヌとピーター ドゥの2ブランドを着ています。セリーヌはたくさん持っていて、在籍中に僕がデザインした服も保管しています。
――ぜひクローゼットを拝見したいです…!最後に今後の展望を教えてください。
小さいチームで、細かいところまで考えながらフィッティングを重ねてものづくりをしていると時間を要し、年に2回発表するので手一杯です。また、工場がザ ロウ、プロエンザ スクーラーなどと同じで、スケジュールが空いている時にお願いしているので発表はウィメンズのファッションウィークとはずらしています。今はそんな状況なのですが、毎シーズン1つのカテゴリーを追加するようにしているんです。2020-21年秋冬ではシューズの展開をスタートさせる予定です。ゆっくりと、自然体で進んでいければ、と思っています。
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ピーター・ドゥ
ベトナムで生まれ育ち、14歳の時に渡米。2014年F.I.T.卒業時にLVMH グラジュエーツ プライズを受賞し、フィービー・ファイロが手がけていたセリーヌのデザインチームに。16年アメリカに帰国。デレクラムを経て、18年1月ブランドを設立する。19年12月21日〜28日アデライデでポップアップを開催。2020年春夏コレクションを国内先行販売した。
Instagram: @the.peterdo
Text: Itoi Kuriyama Photo: Tsukasa Kudo