最近では当たり前のように聞くAR(拡張現実)技術。そんなARに魅了されたファションデザイナーがニューヨークにいる。パーソンズ美術大学を卒業したカイル・グアン(Kailu Guan)だ。彼女が発表したコレクション「KG Project」は、専用アプリのカメラで服を写すと画面にアニメーションや立体が映し出され、服が拡張した感覚を体験できるというもの。
複雑なプリントが目を引く赤と青を基調にしたこのコレクションは全てハンドプリンティングだという。アウターの後ろ身頃をシルバーとブラックのペンキで無作為に塗ったようなプリントもその一つで、この箇所を専用アプリで通してみると、水面のアニメーションが浮き上がってくる。その他に墨汁と筆で描いたかのようなプリントをアプリで見れば、画面上に真っ黒な筆の跡が動き回るアニメーションが出現する。
どこか日本らしさを感じさせるコレクション。その着想源は3年前にカイルが1ヶ月間のユニクロ本社でのインターンシップで日本に来た際に訪れた箱根だった。
「毎日仕事で忙しくて、近場で旅行しようと思い箱根を訪れました。最初は温泉が目的で行ったのですが、東京に帰る前に見た滝に感動し、コレクションのインスピレーション源しようと思ったんです。ニューヨークに戻ってコレクションを製作する際に、当時の経験や感動を表現したいと考えていました。プリントやシルエットなど従来の方法でも表現できましたが、ダイナミックな方法で表現したかったのでARを使用することにしたんです。」と彼女は当時を振り返る。
エルメスがくれたARとの出会い
パーソンズ美術大学に在籍中、セントラル・セント・マーチンズでも1年間テキスタイルの勉強するなどファッションデザインの道を突き進んできたカイルがARと出会ったのは、エルメスがきっかけだった。
それが卒業を控えた2015年にパーソンズ美術大学の学生4人とコロンビア大学の学生4人によるエルメスの共同プロジェクト。ビジネスとデザインを組み合わせてミレニアルズをターゲットにエルメスのスカーフの販売戦略を考えるプロジェクトで、リサーチをしている時にエルメスが香水のために作成したARアプリを知り、感銘を受けたという。
「香水と言えば、香りだけでしか判断できないと思っていたんですが、ARアプリを通して、どこで誰がこの香水を作ったかなど、1つの香水に隠れた物語を知ることができたんです。そのアイデアを応用し、服とデジタルの世界を組み合わせたコレクションを製作しようと思いました」。
自身のコレクションを通じて、着ている人にコネクションを感じて欲しいと話すカイルは、自身の服作りについて次のように話す。
「デザイナーとしてユーザーの立場というものを常に意識するようにしています。だからこそテクノロジーを使うことに興味があります。ウェブサイ トやアプリは、ユーザーのことを考えてデザインされていますよね。ユーザーがあってプロダクトがあるという考え方です。なので服をデザインする時も、何を表現するかということよりもユーザーのことを先に考えようと心がけています」。
テクノロジーで服に対する認識を変える
カイルはARで、人々の服への認識を変えることができると信じる。
「これまで生地の質感など 触覚的な部分だけでなく、ARを利用することで服に対して音や映像などヴァーチャルなアプローチが可能だと考えています。人間のさまざまな感覚に訴えかけることができるんです。
またファッションブランドにとってARは顧客との新しいコミュニケーションの方法になると考えています。」
今ではさまざまなデザイナーから、ARを使った共同プロジェクトの誘いがカイルもとに舞い込むという。そんな彼女は、これからVRを使って服の中に入り込み、そこにあるストーリーを感じ服の一部になるような体験ができるプロジェクトにも挑戦していくそうだ。ヴァーチャルな世界を取り込み、布という制限を超える彼女のファッションデザインの拡張は止まりそうにない。
Kailu Guan
www.kailuguan.com