中国は北京を拠点に、尖った視点から世界を揺るがすベースミュージックやビジュアルを創り出しているレーベル、Do Hits。Do Hitsのレーベルオーナーでありプロデューサーの北京が産んだ奇才、ハウィー・リー(Howie Lee)とそのパートナーである台湾出身のビジュアルアーティスト、ヴィッキー(Veeeky)がファッションブランド『SCV』を立ち上げた。
滅多に降らない大雪後の混乱が残る2月頭の東京に、大富豪が私設したというタスマニアにある近代美術館MONAにて音楽イベントを終えたばかりのヴィッキーが来日。そして、2月3日、渋谷にあるRADD LOUNGEにてSCV初のお披露目となる1日限定 POP-UP Shopが開催され、その夜にはDJを集めたライブイベントを幡ヶ谷のForest Limitにて開催した。最新カルチャーに対するアンテナ感度の高い若者達が多数訪れ、会場の隅々まで好奇心とパッションを感じられる熱い1日となり、大盛況のうちに終了。
リリースした洋服のラインナップは、スウェット、Tシャツ、そして靴下。全てのプロダクトはMADE IN CHINAかMADE IN TAIWANに限られている。それぞれ中国語の刺繍や写真のプリントが施されているのだが、文字の意味はなんとなく理解できるが真意は分からず、謎に包まれたまま。
そもそも、SCVとはどういう意味なんだろう?ヴィッキーに聞いてみた。
右:Veeeky
Veeeky: 『Socialism Core Value』の略で、中国が国家の目標として掲げている社会主義の12個の価値観のこと。このモットーは実際、中国全土いたるところにプロパガンダとして張り出されていて、中国の国民の生活に根付くよう仕向けられてるの。
もっと詳しく話を聞いてみると、SCVとは2012年の中国共産党第18次全国代表大会で掲げられた中国共産主義の新しい社会主義核心価値観、とのこと。そこには、国家が目標とすべき価値が語られているけれど、中国語が読解できなければ、それはただのランダムなシンボルと認識されるだけであって、いろんな含みが持たされる。なぜSCV最初のリリースを東京で開催したのだろう?
Veeeky: 別の環境、脈略の中で文化の主体性がどのように変化するのか知りたかったから。特に、中国と日本は、似ているようで微妙に違う文化のバックグラウンドがあるから。歴史的にも。
まさにSCVがモチーフとして使用した中国社会主義のモットーが異文化の中、無意識に淘汰され、ただの記号のようなシンボルとして変化していく様を観察したいかのようである。今回の東京でのSCVイベントにどんな印象をもったのだろうか?
Veeeky: 今回、東京で出会った皆は、創造性を追求したいという欲求を持っているというのを強く感じたし、彼らが追求しているものにフォーカスしてる間にも、ものすごい早さで物事が進んで行っているというバイブスを感じた。
それでは、SCVのモチーフとなっている中国社会主義のモットーを実際肌身に感じて育った中国のキッズ達の反応は、どんなものだったんだろう。日本とは全く別のものだったのだろうか。
Veeeky: もちろん、全く別の環境の中では全く別の視点や意見が存在している。ビジュアルグラフィックは言語を超えて人々の感情を喚起できるけど、繋がりを感じるためにはある種の理解が必要だと思う。最近の中国の若者達はリベラルだといわれているけど、彼らはこのコンセプトを受け入れてくれているみたい。彼らは、白か黒かしか存在しない社会的なデュアリズムをそもそも信じていないんだと思う。それは、(中国では)誰もが何も信頼していないというハイパーノーマリゼーションが進んでいる状態であって、オーソリティーが言うことが偽り、または真実であっても、自分たちが操作できる情報、またはお金や権利に関る問題でない限り、政治的に関与はしないっていうスタイルになってきてるんだと思う。そんな状況の中だからこそ、ただポジティブになっちゃえばいいじゃん、ていう感じかな。
中国本土ではSNS規制も厳しい上に、ライブ詳細を事前に当局へ提出する必要があったりと、国際的に活躍しようとするアーティストにとって動き辛い土地であるというのも確かである。中国本土でDo Hitsが企画したイベントを告知を最小限に抑えゲリラ的行った際に、警察がライブ中に突入してきたり包囲されたりと、何度か修羅場をくぐり抜けてきた経験があると教えてくれた。そんな中、北京をベースにブランドを立ち上げ、中国政府が掲げるモットーをモチーフにしたプロダクトを作り出すということに恐れはあったのだろうか。
Veeeky: 中国で私達を取り巻く状況をリポストしたりドキュメントすることを集中して行っているけど、今のところ、特に問題と感じることはないかな。壁に囲まれ内側は守られている、という中国特有の文化は存在するけど、周りとは違うアクションを起したいし、両親の目を盗んでこっそり出かけるっていうことは、あまり難しいことじゃないでしょ!
ネット規制が厳しい中でも法の目をかいくぐり存在している中国特有のSNSはどんどん進化しており、ノートラスト的なハイパーノーマリゼーションが進む中、自分にとって何が一番大事か見極め探求する中国本土の若者も増えており、そこから新たな可能性を見出しているようだ。
お気に入りの日本のアーティストは?と聞くと、北野武と返答が。そして、好きな日本のブランドは、COMME des GARÇONS, Toga, Sacaiなどなどだそう。台湾、イギリス、そして中国と様々な国で生活してきたヴィッキーにとって、日本はどのように映るのだろうか。
Veeeky: 日本の文化には、ストリートカルチャーからアート、音楽まで、とても影響を受けてきたの。私達は西洋文化とは別物の、儒教に基づいた似たような社会構造を持っているし。
ポリティカルなテーマがグラフィックとなりファッションの一部となっていく様子は、一種のサンプリングのようで、ハウィーとヴィッキーが音楽を制作する過程と通じる部分があるのではないだろうか。洋服をキャンバスのように使い、目まぐるしく変化していく社会を映し出しているSCV。今後も様々な地域でPOP-UP SHOPをプランしているそう。これからの動きも是非チェックしていきたい。