ロンドンを拠点として活動する、ヘアデザイナーの小戸紀代子さんが気になるアーティストとコラボレーションし、その人らしさをヘアで表現。アーティストのバックボーンを探るインタビューとともにお届けします。
ヘアデザイナー小戸紀代子の“WHO ARE YOu ?” vol.7
小戸紀代子 ×Victoria P Gill @ロンドン
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Victoria P Gill
ヴィクトリア・ピー・ギル/アーティスト
今回は、アーティスト活動をしているヴィクトリアさんにインタビューしてきました。 前回フィーチャーしたハナさんに紹介してもらい、この撮影で初めて会いました。
彼女のインスタグラムを初めてみた時、独特な視点とザ・イギリス感がミックスされていてとても面白かったので、会って話を聞いてみようと即決しました。
実際に会う前に本人について知っておきたかったので、メールでたくさん質問をしました。その回答が面白く、色々と聞いたあとに改めて彼女の作品を見直すと、新たな感情が加わってドンドンはまっていきました。なかでも印象的だったのは、「お金持ちやアーティストの子供と労働者階級の子供が同じ物を着た時に生じる印象の差について興味がある」と回答していたことです。この辺りから徐々に自分の経験に当てはまり始めました。また、“傷付いた心”に興味があると言っていたことや、ヴィクトリアの白、赤、グレーの作品が私自身の“傷付いた心”と結びつき、最終的には彼女の作品にドップリはまっていました。
そんなアーティストであるヴィクトリアさんを、自分の視点を交えてどう表現したらいいのか? そう考えていたときに、最終的にアイディア源になったのは、私が共感した彼女のもうひとつの回答でした。「何もしていないヘアがセクシーに感じる」と、言っていたことです。それはいつも私も意識していることで、ヘアを作る時に一番難しいタスクでもあります。なので、ヘアドレッサー的なコームやドライヤーを使ったタッチではなく自然に作られる何か……ということで、水を入れたスプレーで髪の毛だけではなく顔や洋服全体に吹き付けました。そしたらイギリスで日常的に起こる通り雨のシチュエーションが完成しました。
さらに、あえてボロボロな物を身につけていると彼女は言っていたので、その要素を加えるためTESCOの買い物袋でリボンのように髪の毛をザックリと結びました。
やってみると意外と可愛く、これは普通に夏のフェスで着けていてもかわいいな!と思いました。じつは撮影した写真のなかで、この買い物袋が風でなびいてモヒカンに見える角度の写真がありました。個人的にはとても好きだったのですが、本人にパンク精神がないと成立しないデザインだと思ったので、ヴィクトリアさんにこう質問しました。
「何かに反発するような気持ちがあったり、パンク精神に通じるものがありますか?」
彼女の答えは意外にも「NO」 。
「私のスタイルは確かにある時代のパンクシーンを少し彷彿とさせるかもしれませんが、何かに反発したり、不服に感じている訳ではなく、もっと純粋なところから湧いてくる興味が作品制作のエネルギーになっている」とのこと。
そんなわけで、モヒカンデザインはヴィクトリアさんのキャラクターと反するので、使うのはやめました。彼女の作品を見た第一印象は、何かに反発しているように感じたのでパンクを混ぜてみましたが……。最後にまったく違うと言われて、作品を見直したところますます興味がわき、自分を表現することは本当に複雑で面白いな〜と感じた回でした!
Photo&Text_KIYOKO ODO