絶対に手放せないジャケットや、ずっとそばに置いておきたいバッグ。日々の表現を支える宝物は、いつだってクローゼットの中にある。ファッション好きなあの人が語る、残しておきたいものの話。#残しておきたい宝物
美術家・毛利悠子の残しておきたい宝物:LR3のオーバーオール
ポジティブな消去法で残るもの

ポジティブな消去法で残るもの
ヴェネチア・ビエンナーレ日本館の代表作家に選ばれるなど、国際的に活躍する美術家の毛利悠子さん。彼女が、「人前に出る時も対応できる、きちんとした作業着」としてつなぎを着始めたのは数年前のことだ。
「最初に買ったのは〈ヨウジヤマモト〉のオールインワン。〈ステラ マッカートニー〉のつなぎも気に入っています。もともとセットアップの服が好きなので、それに似た感覚があるのかも。理想は、『おそ松くん』に出てくるイヤミの上下おそろいスタイルです(笑)」
そんな毛利さんが5年前に見つけたのが、スペイン・バルセロナのブランド〈LR3〉。
「老若男女、どんなナショナリティの人にも合う服を作るというコンセプトに、共感を覚えました。年齢や体型を選ばないデザインで、どのアイテムもワンサイズ。横幅もかなり大きいので、黒帯っぽい布ベルトでウエストをキュッと締めて着ています。そうすると可愛いしきちんと見えるし、まわりからカッコいいねって褒められることが多いんです」
しかも、5年間愛用し続けた今、「本当に年齢を問わない服、残っていく服なんだ」と実感しているという。毛利さんいわく、それは「前向きな消去法」で残るもの。
「例えば私が作品を作る時は、最初から明確なテーマを決めているわけではありません。身のまわりの気になる素材を次々と手に取り、拾いあげたり手放したりした結果、最後に残って結晶化したものが表現の出発点になる。服も一緒です。好きなものをあれこれ買いはするけれど、年齢や環境の変化に伴って手放さざるを得なくなるものも必ず出てきます。この服、私が着るにはもう若すぎるな……というように。それを潔く諦めたうえで、それでも残るものが自分を支えていく。〈LR3〉のつなぎは、最後まで残る服だと確信しているし、あと2着は欲しいくらいです」
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毛利悠子
もうり・ゆうこ>> 1980年生まれ。環境などの諸条件によって変化してゆく「事象」にフォーカスする彫刻を制作。6月14日まで台北Project Fulfill Art Spaceにて個展『LED』開催中。©Four Minutes to Midnight
Photo_Toshio Kato Text_Masae Wako
